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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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遺跡 8

描写はそれほどしておりませんが、残虐な表現が後半にあります。

 この世界にはかつて転移の陣という魔術があった。遠隔地でも一瞬でたどり着ける夢のような魔術は魔術王国時代の終焉とともに消えたという。いかにもファンタジー的な便利な魔術がなぜ使われなくなったのか。

 事故が多発した、もしくはコストがかかりすぎるというのが一般的な見解だ。

 現在では完全に失われた魔術で、遺跡などそれっぽい陣が発見されることがあっても、発動させることはなぜかできない。

 原作では、マイアを攫うのに、リオンさまが陣を発動させるというシーンがあった。

 転移の陣と思われる陣のある部屋は広い部屋で天井も高めだ。人がたくさん出入りしたらしく、壁、床の汚れなどが他の場所より目立つ。壁には、文字が書かれていた。『再生』とある。古代語ではなく、帝国語だ。

「これは?」

「おそらくここに出入りしていたものが目印に書いたものだろう。いくつか他の部屋や、出入口に近い通路などにも見受けられた」

 ナスランとは限らないけれど、道に迷わないようにするために、部屋に名前を付けておいたのだろう。

「この陣は、描きなおしてあるようなんだ」

 床には複雑な魔法陣が描かれている。

「確かに魔力線が乱れていますね」

「……そうなんだ」

 普通に描いた魔法陣は、当然、術者本人の魔力で描かれているから陣を描く魔力線は一定のものだ。だが、永久的に残るような魔法陣の場合は、何人かが協力して描くことも多い。そのため、魔力線の質が線によって異なることは珍しくないのだけれども、この陣は、それにもましてばらついている感じがある。

「教え長が言うには、元々ある陣は『移動』の陣で間違いないらしい。ただ、魔術は無効化されている。そして、さらに近年になってから全く別の術に描きかえられた形跡がある」

「別の術?」

「もっともかなり強引な描きかえで、一時的に術を発動させるのが限界みたいで、恒久的にはならず霧散しつつある」

 移動の陣は無効化されたものが発見されることが多く、これもそうしたもののようだ。

「ひょっとすると、移動の術は何らかの事情があって『禁忌』なのかもしれないな」

 リオンさまの話を聞きながら、私は魔法陣を観察する。

 もともと描かれた陣を無効化するためにかぶせた陣の上に、強引に別の陣をのせるなんて、普通に考えたら非効率だ。

「もともとある陣の魔力線は残っているということは、そこに魔力を流したらうまくいきませんかね?」

 恒久的に残すタイプの陣は、魔力を流すことで活性化させることが可能なことが多い。

「どうだろう。無効化されているから普通には無理かなあ」

 もちろん簡単にそれができるなら、とっくにみんなやっていると思う。

「ちょっとだけ試してみたいことがあるのですが」

 原作のリオンさまは、自分の血液を一滴、陣に注ぐことで魔法陣を使用していた。

「おい、アルキオーネ。何を一体どうするつもりだ?」

「えっと。血液を一滴、陣に注いで、魔力を流してみようかなあと」

「け、血液? なんだよ、その呪術めいたやり方は?!」

 兄が大声で叫ぶ。

「──アルキオーネ嬢、その方法をなぜ知っている?」

 リオンさまの顔が青ざめている。

「何故って……その、龍の未来視で、そうやっているのを見たというか、知ったと申しますか」

「それは禁忌だ。口外しないほうがいい」

 リオンさまは首を振る。

「塔におさめられている禁書のひとつだ。無効化の陣をそれこそ一時的に無効化できる。ただ、一滴で済むとは限らない。それに無効化された陣というのは、意味があって無効化されていると考えるのが自然だ。むやみに解くものではない」

 無効化の術がどの規模でかけられているかによって、大量の血液を求められることもあるらしいし、無効化されるに至った原因を知らずして、解除するのは確かに危険だ。

「それに、その禁忌を使ったところで、今まで移動の魔術に関しては無効化を破れたケースはないと聞いている」

 確かにそれが可能であるなら、とっくに移動の術の謎は解かれているはずだ。

「ですが、成功したかどうかはわからないけれど、移動の術を描き変えようと試みた人間がいるということは間違いないのですよね?」

 描き変えて、どんな術を使おうとしたのかはわからない。それが成功したのか失敗したのかもわからないけれど。

「移動の術が使えたら、なぜ魔術王国時代に否定されたのかがわかるのではないのでしょうか?」

 よほどの欠陥が発見されたのでなければ、そんな便利な術が徹底的に消されることはなかったはずだ。

「ひょっとしたら、この描きかえこそが移動の術を無効にしようとする原因だったのかもしれないですし」

 言っていて、それが真実な気がしてきた。

「移動の術をここに配置したのは『赤い月』。無効の術を施したのが、『赤い月』を追っていた『ナスラン』なのではないでしょうか?」

 この場合の『ナスラン』は、神殿の人間を使って何かしようと暗躍していた『ナスラン』とは違うもののはずだ。

「この術を作ったのは『赤い月』だとしたら……私が試してみる価値はあると思います」

 封印の間と書かれた研究室に行くためには、龍の巫女の力が必要だった。だとしたら、この陣も、私の血液なら反応するかもしれない。

「ダメだ。リオンさま。こうなったら、アルキオーネはやってみないと納得しない」

 兄が大きくため息をつく。

「一度だけ試させてください。無理はしません」

 禁忌には禁忌になるだけの理由がある。ただ、その『何故』がわからないと、この陣で何が行われたのか、また行おうとしていたのかが見えない。

「仕方ないな」

「殿下!」

 リオンさまが頷いたものの、ロイスナートさんは納得いっていないようだ。

「試してみる価値はある。ただ、アルキオーネ嬢に危険があってはいけない。陣には全員で入る。それでいいかな?」

「わかりました」

 もし、これで移動の陣が活性化するのであれば、原作の知識が『使える』ことにもつながる。ダメなら、『使えない』ことがわかるだけだ。

 私は持ってきたナイフの刃に指先をあて、陣の中央に浮いた血を落とし、魔力をそのまま流した。

「なっ」

 あたりが光に包まれ、体がふわりと浮いて──とん、と落ちた。

 眩い光が消えていく。

「何だこれは!」

 兄が叫ぶ。

 そこは先程の部屋とはまるで違っていた。

 壁に描かれた文字は『素』。その隣には扉がある。床にはおびただしい黒いあとと、いくつかの人骨がある。白骨化はしているが、まとった服はのこっていた。

「……これは、酷い」

 通気口があるのか風が流れているのと歳月が過ぎていることもあり、『におい』はそこまでではない、けれど。

「これをみると、移動の陣を描きかえた『術』が『禁断の』術であることは間違いないですね……」

 言いながら、自分の声が恐怖でかすれ、膝がふるえる。

「とりあえず、その扉を開いてみます」

 ロイスナートさんが扉を観察し始めた。


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