遺跡 7
短め。すみません。
湖岸沿いの道を抜け、さらに奥へと進む。
湖の周囲は天然窟の印象もあったが、奥の方は再び、人工の通路だ。
「このあたりは沼人が多かった地区です。十分ご注意を」
ロイスナートさんが注意を促す。
「部屋数が非常に多くなっていて迷いやすい。しかも仕掛けのある部屋なんかもあって、一応、危険なやつは解除したのだけれど」
一応、地図製作は済んでいるけれど、先程のような隠し部屋がないとはいえない。リオンさまとロイスナートさんは地図を確認しながら先導する。
「何か臭いますね」
ヘドロの溜まったドブのような臭いがする。
「人工池が近いからね。かなり汚れているから臭う。外に漏れたりしたら病気のもとになる可能性もあるから、浄化を考えてはいるのだけれど」
汚水や汚泥の処理というのは、悩ましい問題だ。
「こちらの区画は比較的出入口も多かった。そのこともあって、このあたりは、人が侵入した痕跡も多く残っていた」
「ナスランですか?」
「マーケー地区も近いからそうだと思う。もちろん、違うものもあるかもしれない。迷い込んだと思われる遺体なんかもそれなりにあったから。大丈夫。きちんと弔って清掃はしてあるよ」
さすがに遺体が転がっていたと考えると、背中がぞくりとして、ちょっと震えてしまった。リオンさまはそんな私に大丈夫だよと、優しく微笑む。
「さすがに気丈なアルキオーネ嬢でも、そんな話を聞いたら怖いよね」
「ええと。すみません」
実際にここを探索したリオンさまたちは、そんな状態をしっかり見たわけで。大丈夫になってから歩いている私が怖がるのは申し訳ないとは思う。
「謝ることはないよ。それが『普通』の感覚だから。私たちだって、そんな風景に慣れているわけでもないし、慣れたくもない」
リオンさまは大きく息をつく。
「この先は足元が悪いです。工事が手抜きだったのか、それとも地下水の関係で陥没したのかわかりませんが」
ロイスナートさんがランタンを高く掲げる。
確かに今まで平坦だった床が波打っていた。
「こちら側は、湖の付近に比べて、コストが控えめだったのでしょうかね」
赤い月にとって、一番大切だったのは、湖底の奥の部屋だったと思われるから、そういうこともあるかもしれない。
「沼人が多く生息したりして『荒れた』というのもあるかもしれない」
本来なら整地されているはずの床は不規則にデコボコしており、心なしか壁も傾いでいるようにみえる。
「手を貸して」
ぐにゃぐにゃして穴が開いたようになった場所でリオンさまが手を差し伸べてくれた。
「ひゃっ」
手をひいてもらったのに、体が傾いてリオンさまに抱きつくような形になってしまった。
「大丈夫?」
「すみません!」
慌てて離れる。あまりにもどんくさくて、申し訳ない。
恥ずかしさと申し訳なさで顔が赤らむのを自覚した。
「アルキオーネ、気を付けろよ」
道が平坦じゃないだけで、体がよろよろしてしまう私を見て、後ろから軽く飛び越えてきた兄がため息をつく。
「お前、もう少し体幹とか鍛えたほうがいいかも」
「……お兄さまの言う通りですね」
足腰が弱すぎる気がする。まあ、貴族の令嬢ってこんなもののようにも思えるけれど。私がしたいこととできることが違いすぎて困る。もっときちんと行動できるようになりたい。
「いいや。アルキオーネ嬢は、これくらいでいいと思う」
リオンさまがくすりと笑った。
「アルキオーネ嬢は騎士になるわけでもないのだし」
「……でも、何かしようと思った時に体力がないのはしんどいですから」
骨折さえしていなければ、私も兄と同じように遺跡探索に加わりたかったくらいだ。私だって冒険とかしたい。
「体力的なハンデくらいないと、君はどこかへ飛んでいきそうだ」
「まあ、確かに。アルキオーネは行動力が馬鹿みたいにあるからなあ」
リオンさまの言葉に兄が頷く。
「私が勝てるところをひとつくらい残しておいて欲しい。君は才媛すぎるから」
「リオンさまの方が、そもそも私より優秀ですよね?」
魔術も学問もリオンさまは優れている。レジナルド殿下と比べては劣るとはいえ、剣術だって十分強い。
まさしくパーフェクトな皇子さまなのだ。
「君の前では優秀に見せようと必死にしているからね」
にこにことリオンさまは微笑む。
「あの角を曲がると、目的地です」
ロイスナートさんが地図を見ながら、先をそっと指さした。




