婚約3
暑さでばて気味で……短くてすみません。
その翌日、私はリオンさまとともに放課後に陛下と面会することになった。婚約の話は、両親を通じて行うことにはなっているのだけれど、それより前に諸々の話を決めておくためらしい。
「はぁ。しかし俺じゃなくて、親父のほうがいいんじゃないか?」
私の付添としてついてきた兄は不服そうだ。
「お父さまが一緒だと、色々すぐ決まってしまうではありませんか」
私が言い出したようなものではあるけれど、まだ心は揺れている。
「すぐ決めるために、呼ばれているのだろう?」
兄は呆れたというようにため息をつきながら、馬車を降りた。
「アルキオーネ嬢、手を」
外から手を伸ばしてくれたのは、兄ではなく、リオンさまだ。先に宮廷に戻ったリオンさまが、わざわざ出迎えにきてくれたのだ。
「ありがとうございます」
リオンさまは本当に紳士で、ひょっとして私はものすごく愛されているのではないだろうかと、つい思ってしまう。
いや、勘違いだとわかっている。
リオンさまにとって、私と兄は『恩人』なのだそうだ。
ひょっとすると、ルシアーナさまの治療のために、私がゴルを飲んで倒れたことをいまだに申し訳なく思ってくださっているのかもしれない。あの件に関しては、私が勝手にしたことなのだから、リオンさまに非はないのだけれど。兄はともかく、私は椿宮横領の件では、事件を引っ掻き回しただけで、たいして役に立っていないから、リオンさまが恩を感じる必要など全くない。
大体、私はそれ以上に色々助けていただいているのだ。
「しかし、ここまで急ぐ必要があるとは思えないのだけれど?」
皇帝陛下の執務室に向かいながら、兄がリオンさまに訊ねる。
「私がダメなら、兄上にという動きだって水面下にあるとも聞いた」
「ええっ?」
リオンさまの話は寝耳に水だ。
「ザナン伯爵の言葉が方便だということくらい誰だって推測できるさ」
「まあ、それはそうでしょうけれど」
兄は苦笑する。
「何にしろ、急がないと、求婚状が山ほどアルキオーネ嬢に押し寄せることになる」
「……そんな馬鹿なことが」
「あるさ。もともと、私と兄上の縁談が決まっていないからこそ、我々の世代では婚約している人間が少ないだけだ。皇族とまとまらないとなれば、それこそ争奪戦になるだろう」
リオンさまの言いたいことはなんとなくわかるけれど。
「でも、私ですよ?」
「そうだよな。アルキオーネだしな」
兄と私は首を傾げる。
「正直、君たち兄妹がなぜそんなに卑下をするのか、理解できない」
リオンさまはふうっとため息をつく。
「アルマク家は名家だし、しかもアルキオーネ嬢は優秀だ。そして、非常に美しい」
「ですが──」
「アルキオーネ嬢の考え方は淑女的ではないかもしれないけれど、常に合理的だ。そしてまっすぐで、そして優しい」
リオンさまはふわりと笑みを浮かべる。
「アルキオーネ嬢の本質を知っていても、求婚しようとする人間だってたくさんいる」
「うーん。本当にいるのですかねえ?」
いるとしたら随分と奇特な人だと思う。
「少なくとも、私はそうだよ」
「リオンさまは、責任感が強すぎます」
私は思わずため息をつく。
「アルキオーネ。さすがに失礼だろう」
兄が私を嗜める。
「リオンさまの誠意を疑うというのか?」
「ごめんなさい」
確かに私の為に決闘までしてくださったリオンさまに対して、責任感で婚約するななんてなどと思ってはダメだ。
たとえ根底にあるのが私への同情や責任感だとしても、『婚約者』という立場の私に対して、誠心誠意向き合ってくださっているのは間違いない。
「言っておくけれど、私はそこまで余裕があってなにかをしているわけではないから。決闘したのだって、カッとなった以上に、ダビーやフィリップが何か言いだす前に自分が決着をつけたかっただけだ。婚約の話を急ぐのだって、アルキオーネ嬢の気が変わらないうちに、話をまとめたいという実に自分勝手な理由で……残念ながら私は、国家への責任感とかそういうもので動くほどできた人間ではない」
「……リオンさま?」
「がっかりさせるようで悪いけどね」
リオンさまはそれだけ言うと、皇帝の執務室の前にいた護衛に来訪を告げたのだった。
急に暑くなりましたので、みなさまもお身体ご自愛くださいませ。
明日はもう少し長く書けるように頑張ります。
6/30 ラストの一文
扉をノック→護衛に来訪を告げるに変更しました。




