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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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46/119

物言い

短めです。遅刻。すみません。

 リオンさまの勝利が宣言されたあと、マルドーネ公子が審判であったレジナルド皇子になにか抗議している。

 何を言っているのかはわからない。

 剣を取り落としたのと、場外に出たのはほぼ同時だった。その場合、反則が二つ付くのはおかしいとか、そういう類なのだろうか。

「マルドーネ公爵の息子は往生際が悪いな」

 陛下は呆れているようだ。

「一体何をもめているのだ? 反則負けが気に入らぬのか?そもそもリオンの圧勝だったではないか」

 陛下は苛ついたように、家臣の誰かに状況を確認に行くように命じる。観客もざわついたままだ。

「ザナン伯爵、こちらにおいでいただけますか?」

 レジナルド殿下が試合場から声を上げる。

 いったい何が起こっているのだろう。

「アルキオーネさん、一応、こちらに来てもらえる?」

 レイベナ先輩が観客席まで私をこっそり呼びに来た。

「どうかしたのですか?」

「あのバカが、リオンさまのリボンについてケチをつけ始めたの」

 小声でレイベナ先輩が説明を始める。

「でも、ザナン伯爵がしっかり検査をしたものですよね?」

 塔の教え長が検査をしたのだ。いったい何が不満なのだろう。

「すり替えとかそういうことを疑っているのですか?」

「まあ、そんなようなものよ」

 レイベナ先輩は肩をすくめた。

 試合場に行くと、生徒会の役員全員と、学院長、それからメルダナ公爵、ザナン伯爵が集まっていた。

「ですから、剣を弾くような魔術が展開するのはどう考えてもおかしいでしょう?」

 マルドーネ公子は一歩も引かないようだ。

 どうやら、水の護りが発動したことを言っているみたいだ。

「それを言うなら、公子の剣が一瞬光ったように見えたことの方が、不自然だったのだがなあ」

 ポツリと小声で呟いたのは、兄だ。

「なっ──侯爵家の人間が、私を愚弄するのか?」

 随分と小さな声だったのだけれど、しっかり聞こえてしまったらしい。耳だけはいいみたいだ。

「もう一度確認いたしましたが、リオンさまのリボンは検査の時と何ら変わりはございません」

 ザナン伯爵が木剣に結ばれたリボンを見つめる。

「信用できない! 皇族だからと忖度していないと何故言い切れる?」

 それを言い出したら、何も信用できないのではないだろうか。

「リオンさまのリボンは、水の護りが施してあります。その魔術が展開しただけ」

「だったら、リボンを取り替えたら、私もその守りが働くのか?」

 マルドーネ公子はぎろりとザナン伯爵を睨みつける。

「それは無理でしょう。非常に高い魔力が付与されておりますのである程度は防ぐことは可能だと思いますがね。あのリボンは、アルマク嬢がリオン殿下の為に縫われたもの。他人が使っても同じようにはいきませんよ。魔刺繍というのは『愛』ですからな。アルマク嬢の『気持ち』は、殿下にしか働きませんよ。一途な想いほど強いという奴ですな」

 ふぉふぉっと、ザナン伯爵は笑う。

「くっ」

 マルドーネ公子は悔しそうだ。

「愛って、そんな」

「……そういうことにしておいて」

 耳元でリオンさまが囁く。

 愛なんて恥ずかしいけれど、加護が強すぎるのが周知されるよりはいいということなのだろう。

 とはいえ、愛って。

 それで周囲は納得するのだろうかと、不安になって周りの反応を見るけれど、皆一様に頷いている。フィリップ兄さまは少し怪訝な顔をしているけれど。さすがロマンスファンタジーの世界だ。愛ですべて解決とか、本当に大丈夫なのだろうか。

「念のため、剣の保管場所に入った人間は、ローバー・ダリン司祭と、私だけだ。公子は私を疑っているのかな? それともダリン司祭を?」

 レジナルド殿下は、マルドーネ公子にたずねる。

「そ、それは」

「それより、ザナン伯爵。マルドーネ公子の剣が光ったのも、その愛ってやつですか?」

 兄が手を挙げた。相変わらず、空気を読んでいるのか、読んでいないのかわからないところがある。

「あれは、魔術ではなさそうだ」

 ザナン伯爵は首を振った。

「光の加護の他に感じはしたのだがおそらく神力だろう。攻撃性はないとみてスルーした。おそらく発動したのはそちらだろう。神力を付与してはいけないというルールはないが、今後の決闘の時はそのあたりも気を付けなければならないですな」

「神力?」

「まあ、普通は傷を治す効果だったりするのだけれど、さすがに神の力を付与することは魔力を付与するより難しいですから……ところで、公子のリボンに付与したというお嬢さんはどこですかな?」

「そういえば、先程まではいらしたと思うのだけれど」

 レイベナ先輩が首を傾げる。

「どうしても勝負に納得がいかないのであれば、リボンなしで再戦してはどうだろうか? 観客もまだ残っている」

 こほんと、リオンさまは咳払いすると、リボンを外し、それを兄に渡す。

「なんなら、君はリボンをつけたままでもいいが?」

「くっ」

 マルドーネ公子は悔しそうにリオンさまを見る。

「わかった。もう一度やる!」

 マルドーネ公子はリボンをとり、それをザナン伯爵に渡した。

「おい、リオン、お前、正気なのかよ」

 レジナルド殿下が呆れたというようにため息をつく。

「これだけ結果がもめると、観客は多少の説明では納得してくれません」

「しかしなあ、あまり徹底してつぶしてしまうのもなあ」

 レジナルド殿下はぶつぶつと呟く。

「いろいろ後から言われるのは面倒なので、今度はすぐに終わらせますよ」

 リオンさまがそういうので、レジナルド殿下は『再戦』を宣言した。

「ああ、まったく、せっかく花持たせて終わらせようとしたリオンさまの恩情を台無しにして……」

「お兄さま?」

「本格的に怒らせてしまったってことだよ。まあ、見てな」

 兄の言う通り。

 試合が始まると同時に、リオンさまの剣はあっという間にマルドーネ公子の胴を薙ぎ、公子は横腹を抱えて膝をつく。

「ま……参りました」

 痛みをこらえながら、マルドーネ公子は今度こそ素直に負けを受け入れたようだった。

6/27 

神聖力→神力に訂正しました。

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