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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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入学式 2

 私の席は最前列にあって、エミリアさまとは少しだけ席が離れている。私の隣は、ニック・マルドーネ公爵令息の隣だ。

 ストレートのアイスブルーの長い髪。やや鋭い目に通った鼻筋。皮肉な笑みを常に浮かべているような薄い唇。

 美形といえば美形だし、何といっても公子であるから、ちやほやされて育ったのだろうなあという印象だ。あまり知らないのにこんなことを言っては何だけれど、気位の高い貴族の坊ちゃんという感じで私は苦手なイメージである。

 ちなみに、新入生代表挨拶が、私ではなくマルドーネ公子だった理由については、兄から聞いた。どうやら、マルドーネ公爵がごり押ししたという話だ。

 今日の入学式は自分の息子を壇上に立たせたかったみたい。

 学院側としても、マルドーネ公爵の機嫌は損ねたくなかったのだろう。

 しかしまあ、そういうのが好きそうなタイプだ。

「一応、王配候補だしな。今回は学院も折れたほうが得とみたようだ」とは兄の推理。

 マルドーネ公爵家は、皇族と関わり合いが深い。今の皇帝の妹が、公爵家に嫁いでいて、リオンさまたちの従弟でもある。年は七歳も離れてはいるけれど家格的にフィーナ皇女の婚約者候補ナンバーワンという噂だ。

 マルドーネ公子とフィーナ皇女が婚姻となれば、フィーナ皇女が次期皇帝で間違いないだろう。

 未成年のうちだと年齢差が気になるけれど、あと十年もすれば七歳なら離れすぎということもない。本人たちが望んでいるかどうかはわからないけれど。

 ちなみに原作通りにレジナルド殿下がマイア・タランチェ子爵令嬢と結ばれた場合、フィーナ皇女が皇帝になる確率が高くなる。

 もっとも、陛下が良いと言えば、誰が誰と結婚しようが関係ないのかもしれない。


 

 

「それでは、入学式を始めます」

 兄が壇上の脇に立つと、黄色い声が上がった。

 そう。妹としては複雑ではあるけれど、兄はそれなりに人気がある。次期侯爵になることは間違いないし見栄えも悪くはない方だから、不思議ではない。

 普通に考えたら婚約者がいてもおかしくないのだけれど、同世代の皇子二人がまだ婚約していないという理由で、そういう話はまだ出ていないし、たぶん本人もまだそんな気はないのだろう。女性とどうにかなるとかより、まだ同性とつるんでいる方が楽しい時期って感じかも。

 もっとも。

 リオンさま、レジナルド殿下の二人が隣にいると、兄は霞む。二人の皇子は皇子というだけではなく、超優秀で、しかも美形だ。また、兄はいつもリオンさまの隣にいるから、さらに目立たなくなる。兄妹そろって、この国では珍しい黒髪でカラーリング的に地味だからというのもあるかな。

「在校生代表の歓迎の言葉」

 壇上にレジナルド殿下が進み出る。

 豪奢な金髪に青い瞳。色合いはともかく、顔立ちそのものはリオンさまとよく似てはいるけれど、若干レジナルド殿下の方が野性味がある。ちなみに身長は、リオンさまの方が少しだけ高く、肩幅はレジナルド殿下の方が広い。

「ご入学おめでとうございます」

 レジナルド殿下の挨拶が始まる。

 相変わらず、まるで少女漫画から抜け出して来たかのような『皇子』さまだ。実にキラキラしい。かっこいいとは思うけれど。それだけだ。

 実は高等部に入ったら、突然、レジナルド殿下に心惹かれるとかあったらどうしようとか少し心配はしていた。

 私はあくまで私であり、原作のアルキオーネに『変わる』ようなことはなさそうである。

「……学院生活で困ったことがあれば、いつでも助けを求めてほしい」

 ぐるりと新入生の方を見回しながら、にこりと微笑む。

 さすが皇族。すべての新入生が目が合ったと錯覚するような視線の動きだ。女生徒の中には頬を赤く染めている者も多い。

 まあ、顔面偏差値高いから無理もないと思う。私はリオンさまで耐性ついているから大丈夫だけれど。何なら、リオンさまの方が少し妖艶だし。

「……在校生代表、レジナルド・ファフニール」

 殿下の言葉が終わると、次は新入生の代表挨拶だ。

「新入生代表の言葉。新入生代表、ニック・マルドーネさん」

「はい」

 兄の呼びかけに答え、隣のマルドーネ公子が立ち上がり、壇上に上がる。一瞬私の方を見て、勝ち誇ったのような笑みを浮かべたように見えた。

 ひょっとして、私が悔しがっているとでも思っているのだろうか。

 まあ、どうでもいいけれど。

「私たちは、この学び舎で様々なことを学び……」

 壇上に上がったマルドーネ公子は、誇らしげに抱負を長々と語る。

 なるほど。とりあえず、語りたいお年頃らしい。

 退屈だなあとは思ったけれど、最前列なので欠伸などしたら丸見えだ。

 ちらりと檀上脇にいる兄の方を見ると、兄も『長いなあ』と言わんばかりの顔をしている。その後ろに座っているレジナルド皇子とリオンさまは、真剣な顔で公子の方を見ていた。さすが、皇族。表情の管理が完璧だ。なんて思っていたら、リオンさまが私の視線に気づいたのか、僅かに笑んだようにみえた。

 いや、まさか、だけれど。

 思わず胸がドキリとして慌てて視線を膝の上に戻す。

 リオンさまは見られることに慣れているし、そもそも、こんな大勢の中にいる私が気まぐれに送った視線に気づくはずなんてあるはずもなく、さすがに自意識過剰だ。

「……新入生代表、ニック・マルドーネ」

 長かった話もようやく終わった。

 それにしても、入学式の新入生の挨拶でこんなに長く話す人は、前世でもいなかった気がする。校長先生並みだわ。

 是が非でも代表になりたかったって感じ。

 席に戻ってきたマルドーネ公子は、実に満足げだ。

 正直、面倒臭そうな人な気がする。

 そして、往々にしてそうした勘はあたるのだった。



 教室に入ろうとしたところで女生徒と身体がぶつかった。

「キャっ」

「え?」

 思わず私も一緒にしりもちをつく。

 桃色のふわふわな髪。大きなアメジストの瞳をした美少女だ。

「も、申し訳ございません」

 びくっとしたように美少女は頭を下げる。

 マイア・タランチェ子爵令嬢だ、となぜだか、わかった。

「あの、大丈夫?」

「お許しくださいませ」

 私が侯爵家の子女だとわかったのか、怯えた顔で謝られる。

「ケガはない?」

「本当に申し訳ございません」

 別に私は怒っていないのだけれど、ひたすら彼女は謝ってくる。しかも目にいっぱい涙をためて。

 なんだろう。この状況。

「アルキオーネさん!」

「私が悪いのです!」

 駆け寄ってきてくださったエミリアさまにむかって、彼女は叫ぶ。しかも声が大きい。

 なんだろう。これ。私が怒り狂ってでもいるかのような流れだ。

 ざわざわと周囲がざわつく。

「おい。アルマク嬢、何やっている?」

 割り込んできたのは、マルドーネ公子だ。

「私が、ぶつかってしまって……申し訳ありません……」

 彼女はぽろぽろと涙を流し始めた。

「なんだ? 弱い者いじめかよ? 皇子殿下の婚約者候補だからってそういうのはどうなんだ?」

 マルドーネ公子が私と彼女の間に入り、彼女を助けおこす。

「首席か何だか知らないが、もう少し寛容になるべきではないのか?」

 私はゆっくりと立ち上がって、スカートについたほこりを払う。

「私はけがはないかとお聞きしただけです。私の顔がキツイせいで怖がらせてしまったのでしたら申し訳なかったわ。とにかく謝罪は受け取りました。これ以上謝っていただかなくても結構です」

 ふうっと私は息を吐く。

 これ以上話しても無駄だ。どうやら彼女は私を『酷い女』と印象付けたいみたいだし、なんならそれは成功したみたいだ。何を言っても今更どうすることもできないし、むしろ逆効果。さっさと切り上げるに限る。

「なんだと?」

(わたくし)にも彼女が過剰に謝っていただけに見えましたわ」

 エミリアさまが口をはさむ。

「メルダナ嬢、あなたまで何を」

 マルドーネ公子が呆れたようにエミリアさまをみる。

「マルドーネさま、それほどまでにご心配なら、そのかたを保健室にお連れしてくださいな。気持ちが高ぶりすぎていらっしゃるようですから。エミリアさま、ありがとうございました。私は大丈夫です」

「でも、アルキオーネさん」

 何か言いたげなエミリアさまには首を振る。

「私が至らぬせいで、お騒がせして申し訳なかったです。どうか皆さま、席にお着きになってくださいね」

 にこやかに微笑みなら謝罪する。私が席に向かうと周囲のみんなも席につき始めた。

 泣いている美少女に涙で対抗できるほど私は器用じゃない。ただ、淑女の仮面をかぶることくらいはできる。

 涙を流していた少女が少し悔しそうな顔をしたのが視界の端にみえた。

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