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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
中等部編

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21/119

執務室

 本宮に戻ると、リオン殿下が待っていた。

 リオン殿下は本宮にも自分の部屋を持っている。私たちはその部屋へ招かれた。

 部屋といっても、執務室というのが正しいかもしれない。今は椿宮の捜査本部にしているようだ。

 部屋は広く、手前は応接室のようになっていて、奥は事務作業をするための執務机が置かれている。壁面には書棚が置かれていて、びっしりと本が並んでいた。

「ガデリ司祭、ジュテスト医師、本日はありがとうございました」

 リオン殿下が頭を下げ、私たちに座るようにソファをすすめる。

 リオン殿下の対面に司祭と医師が座り、兄と私がリオン殿下の隣に座った。

「いやあ、ちょっと悪だくみという感じで楽しかったですよ」

 ふふっとガデリ司祭が笑う。

「おっちゃん、本当に口が上手いよなー」

「お兄さま!」

 私は思わず兄の袖を引く。高名な司祭さまにいったい何を言うのか。

「だって、アルキオーネ、おっちゃん、すごいんだぜ。よくもまあ、口から出まかせが次から次へとって感じでさあ」

「それに合わせて畳みかけるダビーも大したものだったぞ」

 ガデリ司祭は楽しそうだ。そして、兄はかなり可愛がってもらっているみたい。

「ダビーが神力持っていたら、本当に弟子にしたいところだよ」

「おっちゃん、俺、一応、侯爵家の跡取りなんだけど」

 兄は苦笑するけど、嬉しそうだ。うん。仲良しだな。

「ガデリ司祭のお力添えをいただき、ルシアーナさまも治療に対して前向きに取り組んでいただけるようになりました。ご病状に関しては、思ったより進行しておりまして、手放しで喜べる状態ではありませんが……」

 ジュテスト医師は丁寧にルシアーナさまについての診断結果を説明した。

「そうか」

 リオン殿下は沈痛な面持ちで頷く。

「ルシアーナさまは、人員減少は予算減少のせいだと考えていらっしゃったようです」

「母上は、あまり数字に強くない。もともと事務仕事は人に任せきりだったみたいだから」

 リオン殿下は肩をすくめた。

「お身体の様子は確かにあまりよいとは思えませんでしたが、ただ、思考はしっかりしておられました。少なくとも女主人としての役割を求められれば、無理をしてでもお務めになるでしょうし、乞われれば殿下に委任することもなされそうです」

「つまり、そのようなことを求められたことがなかったということか?」

「そうです」

 人員を増やしてほしいという要望があり、おそらく金もあるはずなのに、ルシアーナさまのところに話がないのは、誰かがそれを止めているということだ。

「それから、殿下とお会いにならない理由は、やはり龍の『未来視』でした。ご自身が、リオン殿下を刺してしまうというもののようです」

「母上が私を?」

 リオン殿下は驚きつつも頑ななルシアーナさまの態度にようやく得心したようだった。

「いつ、どこ、なぜ、など詳細が一切わからないため、会うことを避けるしかなかったと仰っておられました」

「……そうか」

 具体的にどうやったらルシアーナさまの不安を取り除くのかは難しいけれど、お互いの現状をそれなりに把握できたことは、一歩前進したとかんがえていいだろう。

「龍の力は一方的で、わかりにくいものとされております。むしろ、アルマク嬢のように細かい情報がある方が稀かと」

「細かいですかね?」

 私は首をひねる。私の『未来視』も何もわからないに等しい気がするのだけれど。『黒龍の息吹』の時によみがえった『前世の記憶』はもっと詳しかった。

「少なくとも場所と登場人物がはっきりわかるのは、珍しいです」

「……そうですか」

 それがいいのか悪いのかはよくわからない。どうやったら『回避』可能なのかまでわかればいいのだけれど。

「とりあえず、ゴルの服用を誰かに止められたら、ジムさんに『鬼まんじゅう』を食べたいと伝えるようにとお願いしました。それから、ルシアーナさまがおっしゃるには、殿下の面会の申し入れは毎日ではないとお聞きしました」

「なるほど。つまり私からの要望は母上に伝わっていないということだね」

 リオン殿下は大きくため息をついた。

 もちろん、ルシアーナさまは病人だ。日によって体調の良し悪しもあって、必ずしも伝えられない日がないともいえない。また、家政婦長はルシアーナさまがリオン殿下と会うことを避けたいと思っていらっしゃることを知っている。だから必ずしも悪意で伝えていないとはいえないのだけれども。

「あの家政婦長、おっちゃんはどう思った?」

「光輪派のかなり過激派のようだね。選民意識も強い」

 ガデリ司祭の表情は苦い。

「面と向かって私に反論するだけの気概はなかったが、魔獣由来の薬など、どうやっても許したくはないようだった」

「ルシアーナさまは、ゴルの効果を体感してくださったようですが……」

 ジュテスト医師の顔が険しくなる。

「ルシアーナさまが服用したいと思われても、かなわない可能性はあるでしょうな」

 ガデリ司祭はため息をつく。

「一度凝り固まってしまった価値観を覆すのは、非常に難しいものだ。過激な思想ほどわかりやすく魅力的だからね」

「俺、あの家政婦長、ルシアーナさまを大切には思っていないと思う」

 兄の顔は険しい。

「宗教上の理由とかそういうのではなくって。少なくとも現在の状況はルシアーナさまにとって、かなりご不便な状況だ。普通に考えたら、少なくともルシアーナさま付きの使用人の数は何としても増やすよう働きかけるべきだろう?

たとえ予算がなかったとしても。夫である家令が良しとしないなら、殿下に訴えかける程度のことはしてもいいと思うんだ」

「私もそう思います。ルシアーナさまは龍の未来視について、彼女に話したと仰っておりました。殿下とルシアーナさまのことを想うのであれば、殿下に事情を説明するなり、相談をなさる必要があると思います」

 少なくとも『陛下に似ているから会いたくない』なんて理由を繰り返すのは、二人を分断しようとしているとしか思えない。

「実は、会計責任者のニック・ドロワだけでなく、家令のキール・ポルダも横領に係っているのがほぼ間違いなさそうなんだ」

 リオン殿下は自分の執務机に戻り、書類の束を持ってきた。

「実際に帳簿をやりくりしていたのは、ニック・ドロワで間違いない。ドロワは賭博の借金があったのを数か月前に返済している」

 書類の束を指で繰りながら、リオン殿下は続ける。

「人件費に関してはキール・ポルダに内緒でドロワが操作できるわけもない。どちらかといえば、ポルダ主導だろうな」

 リオン殿下は淡々と話す。

「ポルダに関してはまだ捜査中だ。生活に関しては、派手な生活をしているわけでもないし、外に女性を作っているというようでもない。あえていうなら、宗教活動に熱心というところだな」

「宗教活動ですか?」

「家政婦長のバーバラもそうだが、二人とも熱心なプロティア教の信者だ。光輪派の勉強会などによく顔を出しているらしい。特に『青砂』という孤児院には足しげく通っているようだ」

「青砂ですか……神殿の経営する孤児院の一つですね」

 ガデリ司祭が呟く。

「あのポルダ子爵が孤児院を訪問するなんて、すごく意外な気がします」

 私の偏見ではあるかもしれないけれど。

「どういう意味だい? アルマク嬢」

「ポルダ子爵は、非常に貴族主義な方のようでしたので、孤児院に寄付することはあり得ても、訪問して奉仕活動をするような人には見えなかったものですから」

 殿下の客人であったのにもかかわらず、平民のヴァルダ先生への態度がとにかく悪かった。

 あんな態度をとる人が、孤児院で奉仕活動をするとはちょっと思えない。外面はいいということだろうか。

「確かにな。殿下の威信を守りたかったのかもしれないけれど、先生を馬鹿にするような人間なのに」

 兄も私と同意見らしい。

「……そうですね。失礼ながら私もそう思います」

 ジュテスト医師が口を開く。

「少なくとも家政婦長は、私の母が商家の出身と知って、随分と蔑んでいるようでしたから」

 だからこそ、余計に治療を阻もうとしていたのだろうか。

「生まれや育ちでその地位を得た人より、よほど優秀なのに信じられない」

 思わず呟く。

「ひょっとしたら、ポルダの後ろにも誰かいるのかもしれないとは思っている。ポルダに関してはそれほど私腹を肥やしているようにはみえないからな」

「お金が目的ではないと?」

「少なくとも、目に見えて金を使ったと思われるのは寄付金くらいだ」

 リオン殿下は首を振る。

「なんにしても、ルシアーナさまの件は早急に手を打たないとなりませんな。治療がこれ以上遅れてはいけないでしょう」

 ガデリ司祭の言う通りだ。

「ゴルに関しては、料理に混ぜ込むという方法をとることもできましょう。ただ、現状を打破するにあたり、家政婦長に知られずにルシアーナさまと連絡を取る方法を考えませんと」

「それは……何より難しい問題だな」

 リオン殿下は額に指をあて、険しい顔をした。


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