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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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卒業パーティ 5

 フィリップ兄さまからもらったたんぽぽもリオンさまに頼んで髪にさしてもらった。椿の華やかな髪飾りにカスミソウとたんぽぽという取り合わせは、たぶんちぐはぐだとは思う。でも、そんなこと、今日はどうでもいい。クラーク先輩やフィリップ兄さまの気持ちだもの。

「これ以上はもう受け取らないでね」

 リオンさまはにこやかだけれど、どこか圧のある笑みで私に念を押す。

「そんな人、いませんよ」

 私は思わず苦笑する。私は兄と違って交友範囲とか狭いのだ。

「むしろリオンさまに花を渡したいご令嬢の方が多そうです……」

「うーん。その心配は不要だよ」

 リオンさまは苦笑する。

「私はアルキオーネと違って、そもそも受け取らないから」

「なるほど。安全面も考えると、その方がベターかもですね」

 リオンさまは皇族である。いくら無礼講でたかが『花』とはいえ、簡単に人からものを受け取るのは安全的な意味で不用心ではある。

「アルキオーネは優しいなあ」

 リオンさまは口元をほころばせた。

「優しくはないです。そう思ったら、ほっとしましたから」

 リオンさまとの婚約は、仮のものだと言い張っていた私だけれども。今では、私以外の誰かが、リオンさまの隣に立つのは嫌だと思ってしまう。そんなことはないとはわかっていても、誰かが婚約破棄伝説を信じてリオンさまに突撃してきたらしんどいし、万が一にも破棄されたりしたら、自暴自棄になってしまうかもしれない。

「お二人とも。いちゃつきたいのはわかりますけれど、陛下たちが入場されますわ」

 エミリアさまに促され、そちらをみると、警備の兵たちとともに陛下たちが入場してきた。

 今回はあくまでも保護者枠なため、皇帝、皇后両陛下、それから側妃二人も、白と黒を基調にしたシンプルなデザインの服装だ。シンプルといっても、ゴテゴテしていないという意味であって、粗末とかそういう意味ではない。上質な絹地を贅沢に使ったゴージャスなものである。

 フィーナ皇女は白地のふんわりとしたドレス。非常に可愛らしい。髪には、マーガレットの花飾り。まるでお人形さんのようだ。

 あと五年もすれば、国内外から求婚状が殺到するだろう。傾国の美姫と呼ばれてもおかしくないくらいの美女になる気がする。

「あれだけ気合い入れてこられると、フィリップもダンス一曲くらいは付き合わないわけにはいかないだろうなあ」

 フィーナ殿下の姿をみつめ、リオンさまは少し複雑そうにつぶやいた。



「というわけで……今回は陛下のご参列も賜ることもできました」

 どこの世界でも偉い人の挨拶というのは、長く退屈だ。学院の先生なんて、考えてみれば政治家と同じくしゃべりのプロのはずではあるのだけれど。ただ、今回は学院長も緊張しているのかも。なんといっても陛下がいらっしゃるわけだから。

「……今日は学院最後の日を楽しんでください」

 結びの言葉が告げられると、わぁーッという歓声が上がり、楽団の音楽が始まる。

 すると今まで談笑をしていた生徒たちが、パートナーの手を取りダンスを始めた。

 普通の舞踏会なら、まず主催者に挨拶とかしなきゃだけれど、今日は無礼講。もっとも主催である学院長より陛下の前に挨拶の列ができそうだけれど。

「アルキオーネ、私と踊っていただけますか?」

 リオンさまは軽く跪き、私の手にキスを落とす。その瞳は相変わらず魔性のような色気が漂い、胸がドキドキしてしまう。

「はい」

 リオンさまの手を取り、ダンスの輪に入る。

 周囲を見渡すと、兄とエミリアさまもダンスを始めるようだ。

「不思議ですね」

 軽やかにステップを踏み出しながら、ふと思う。

「卒業パーティでリオンさまとこうしてダンスするなんて、中等部に入ったころは考えてもみませんでした」

「アルキオーネはどちらかといえば、私を怖がっていたしね」

 リオンさまの笑みは少しほろ苦い。

「龍の未来視のせいで……申し訳なかったです」

 思えばリオンさま本人がしてもいないことに対して怯えていたのは、ある意味で失礼なことだったと思う。

「いいや。君は君を殺すかもしれない男の私に手を差し伸べてくれた。私にとっては、本当に君は女神だよ」

「……リオンさま」

 甘いリオンさまの囁きがくすぐったい。

「自分が誰かをこんなに好きになるとは思っていなかった。私はいつも兄上のスペアのように扱われることにも慣れていたし、事実そうあろうとしていたからね。いろいろ鬱屈してたとも思う。予言のように闇に落ちずに済んだのは、ダビーとアルキオーネのおかげだ」

 リオンさまの晴れ渡った夜空色の瞳はどこまでも澄み渡っている。

 この澄んだ目が、闇に呑まれずにすんでよかった。

「この手を私は、ずっと離さないからね」

 リオンさまはその言葉の通り、曲が終わってダンスの列を離れても私の手を放そうとはしなかった。


 

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