卒業パーティ3
しばらくすると、弦楽器の音合わせの音が聞こえ始めてきた。
楽団員が本格的な準備を始めたのだろう。
演奏するのは国の楽団。入団するとなると、演奏の腕だけではなく、お家柄まで調査される名門である。一応、平民でも入団可能ではあるのだけれど、実際問題、かなり裕福でなければ楽器の演奏なんてそう簡単に学べるものではない。
もちろん、この世界にもジプシーみたいな旅芸人はいるのだけれど、そういった人たちが国の楽団に入ったという話は聞いたことはない。
楽器編成は弦楽器が中心だけれど、金管楽器もはいっているいわゆるオーケストラ。楽器の形も音もほぼ変わらないし、なんなら有名な曲の中に『どこかで聞いた曲』っぽいのも存在する。たぶんだけれど、龍の寵児か巫女が前世の知識を持ち込んだのだろう。
今までなんとなく『日本で書かれた物語の世界』だからなあと思っていたけれど、実際には、『地球上の記憶を持っている人がいる世界』だからなのかもしれないと思うようになった。大魔術師グラドのこともあるしね。
時間がたつにつれ、人が増え、がやがやと人の声が大きくなっていく。
「兄上が来たようだ」
リオンさまが入り口の方に目を向ける。
ざわめきの中現れたレジナルド殿下のパートナーは婚約者であるレーベナ公爵令嬢。レジナルド殿下の胸元には赤いバラを模したアクセサリー。レーベナさまのドレスはレジナルド殿下の瞳に合わせた碧いドレスだ。
二人より添って立つ姿は、非常に甘い。レジナルド殿下は半年後に結婚なさるそうだ。
「私の方が先に婚約したのに、不公平だよね」
リオンさまはちょっと不満そう。
そう言われても、私はまだ一年たたないと卒業できない。この国の貴族の子息子女は結婚が早いとはいえ、学院は卒業してからするのが定石だ。
話によれば、生徒会にいたときから、レジナルド殿下はレーベナさまに猛アタックをしていたらしいのだけれど(私は全然気づかなかった)当初、レーベナさまは自分が年上であることを理由に躊躇なさっていたとか。でも結局は、レジナルド殿下の情熱に絆されたということらしい。
「そういえば、ルシアーナさまやバーベナさまもおいでになるのですか?」
「うん。実はスーヴェル皇后も来るから、今回は妃三人そろい踏みなんだ。そのせいで周囲はピリピリしている」
リオンさまは苦笑する。
陛下の正室はスーヴェル皇后だけれど、皇太子殿下の母親はバーベナ妃。いろいろ複雑なところだ。
「アルキオーネとしても心配だろうけれど、意外と私たちは仲がいい方だと思っている。バーベナ妃はわからないけれど、母は、皇后陛下と気が合うらしいし。ともかくすごい方だからね」
陛下は政治家としてはともかく家庭人としてはあまり優れているとは言い難い人だけれど、スーヴェル皇后陛下は案外情に厚い人だ。キッパリサッパリしたところがあって、少々怖い印象はあるけれど。側妃二人との関係も良好だ。何より、レジナルド殿下の立太子を望んだのは、スーヴェル皇后陛下である。
話によれば、フィーナ皇女の縁談相手だったマルドーネ公子のことがあって、娘には自由な相手を選ばせてあげたいと願ったことも一因だったらしい。
「そういえば、フィーナ皇女はお留守番ですか?」
「いや。一緒に来ているはずだよ」
「……ロイヤルファミリー勢ぞろいじゃないですか」
皇族主催の夜会でもないのに。警備が大変になるわけだ。
「まあね。もっともフィーナが祝いたいのは私たちではないけれど」
リオンさまは肩をすくめる。
「フィリップはフィーナの想いを幼い夢のようなものと思っているが、あれはかなり本気だ。フィリップの気持ちを思うとかなり複雑になるが……」
リオンさまは軽く首を振る。
「それは……私もそう思いました」
フィーナ殿下のフィリップ兄さまに向ける眼差しには恋の情熱があるように思えた。時がたてば消える思いなのかと言われると疑問だ。
見せかけだけのマルドーネ公子と違い、フィリップ兄さまがカッコいいのは事実だし。
「フィリップも相手がフィーナだと無下にすることもできないから、何とかしたいとは思ってはいるのだが……」
はっきりと辞退したフィリップ兄さまだけれど、もともと婚約者がいなかったこともあり、結局はフィーナ殿下のお相手の最有力候補のままだ。
「ただ、フィリップとしては、私に世話を焼かれたくはないだろうしな」
リオンさまは私を見つめて、苦笑いを浮かべた。




