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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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卒業パーティ

 結界は思った以上に強固に張られ、帝都から離れた場所で若干、魔物の出没はあったものの、蝕の日は無事終わった。

 今日は学院の卒業パーティ。

 といっても、私はまだ卒業しないけれど。

 今日の私は赤い椿を模した花の髪飾りを結い上げた髪につけている。ドレスは深紅。ネックレスはルビー。靴も赤。要するに、真っ赤である。

 しかももともと黒髪、ややキツめの顔立ちのせいで、いでたちは立派な悪役令嬢だ。

 ほーほほほっと、笑ったら似合いそう。やらないけれど。

「非常によくお似合いですわ」

 なーんて、侍女はうっとりとした目で送り出してくれた。うん。我ながらひくくらい似合っている。このまま婚約破棄、断罪される悪役令嬢みたい。まあ、元々悪役になる可能性があったわけだけれど。

「アルキオーネ?」

 椿宮の入り口まで迎えに来てくれたリオンさまは、なぜかそのまま立ち止まった。

 今日のリオンさまは、黒のフロックコート。腕に輝いている銀のブレスレットには黒曜石がはまっている。唯一、胸元に刺している花飾りだけ、赤い椿だ。

 全身黒だとリオンさまの赤い髪が非常に映える。魔性めいた美しさだ。

「卒業おめでとうございます」

 私は慌てて淑女の礼をとる。

「ああ、ありがとう」

 リオンさまは、はっとしたように答えた。

「どうかなさいましたか?」

「いや。アルキオーネがあまりにも美しくて魅入られてしまった」

 とろけるような甘い笑みを浮かべ、リオンさまは私の手を取る。

 そしてそのまま二人で馬車に乗り込んだ。

 皇族用の馬車とはいえ、二人乗りだからそれほど広くはない。もちろん座り心地はとてもよくてお尻が痛くなるなんてことはないけれど、狭い空間に密着して座ることにはかわりなくて、緊張する。

「君を誰にも見せたくない気もするし、逆に私のものだと見せびらかしたくもある。こんな気持ちになるとは思わなかった。よく似合っているよ」

「ありがとうございます……リオンさまも素敵です」

 褒めてもらえるのは嬉しい。

 うん。でも、私とリオンさま、見た目がほぼ悪役カップルな気もする。

 色合いも赤と黒。少々厨二めいた感じ。魔王とその愛人みたいな? 

「ねえ、アルキオーネ。婚約破棄伝説を信じて、突撃してくる令息もいると思うけれど、私を捨てないで欲しいな」

「それはないと思いますけれど」

 どちらかといえばリオンさまに突撃する令嬢はいそうだから、私の方が破棄されそうな気がするけれど。

「アルキオーネは自分のことを知らなさすぎる」

 ふうっとリオンさまの吐息が私の耳にかかる。そのまま柔らかいものが耳たぶに触れた。

 キスをされたのだ。

 胸がどきどきして体が固まる。

「たとえ空に月がなくても……月は綺麗だから」

 リオンさまは甘くささやく。

「私も……月は綺麗だと思います」

 リオンさまはずるい。

 私にだけわかるように甘く愛を囁く。隠す必要はないしリオンさまも隠していないのだけれど、何か秘密めいていてドキドキする。

「うん。お化粧が心配だから、帰りまで我慢するね」

 リオンさまは私の口元を指さしたあと、もう一度私の耳にキスをした。




 学院の馬車止めは馬車でごった返していた。

 皇族の馬車は裏口から最優先で入れてもらえるという特別待遇のため、馬車渋滞に引っかからずに入れたのが、非常に申し訳ない。

「お兄さまはたどり着けたのかしら?」

「どうだろう? 早めに出るとは言っていたけれど」

 厳重に検査が行われるので、次から次へと入場というわけにもいかず、とにかく時間がかかっている。

 今年は特に警備が厳しいし、参加希望者が多い。来賓も例年の倍近いと聞いている。

「本当に学院ではなく、宮殿でやるべきだったのではないでしょうか?」

「うーん。そうだねえ。ただ、それをやると、皇族がいるときだけ特別扱いなのはどうかという議論もあるから」

 リオンさまは苦笑する。

「十分特別だと思うのですけれど」

 話によれば、警備は例年の三倍なのだ。皇族二人の卒業式、しかも保護者で陛下が参列するというところで、特別とか特別じゃないとか、今更な議論のように思える。

「もちろん、学院の卒業パーティなのですから、学院で行いたいという意図はわかりますが」

 リオンさまたちにとっては、学生最後のイベントである。宮廷で行うのは何か違うのはわからないでもない。

「リオンさま! 受け付けはこちらです!」

 人の波を眺めていると、聞きなれた声がした。

 クラーク先輩だ。

 クラーク先輩は騎士服を着ている。胸元には白いカスミソウ。

 みたところ、入り口で荷物チェックをしているようだ。

「先輩、ひょっとして今日はお仕事ですか?」

 卒業生であるクラーク先輩は、今日は主役のはず。どうしてこんなところで仕事をしているのだろう。

「ええ、まあ。始まるまでのことです。人手が足りないものですから」

 クラーク先輩は苦笑し、魔道具による簡易持ち物検査を私たちに行う。招待状や名簿の確認も行われるところだが、リオンさまは流石に顔パスだ。

「特に問題はないようです。……あの、アルマク嬢」

 リオンさまと一緒に中に入ろうとしたとき、呼び止められた。

 なんだろうと思って振り向くと、カスミソウの一枝を手渡される。

「クラーク先輩?」

「受け取ってくださるだけで結構です」

「ありがとうございます?」

 よくわからないまま受け取ると、「お幸せに」と微笑んで、クラーク先輩は仕事に戻っていった。

「どうしましょう」

 私はカスミソウをどうしたらいいのかわからず、リオンさまの方を見る。

 クラーク先輩は、なぜ私にこれを渡そうと思ったのかもわからない。婚約破棄伝説が何か関係しているのだろうか。クラーク先輩の胸元にはまだ生花が残っていたから、いわばこれは『義理』のようなものだと思うのだけれど。

「クラークからなら、さすがに捨てろとか言えないな。本当は言いたいけれど。貸して。飾ってあげる」

 リオンさまは私からカスミソウを受け取ると、髪飾りの横にさしこんでくれた。




 


 年内最後の更新になります。

 長々と続いておりまして申し訳ございません。

 次回更新は1/5の予定です。


 本年もお読みいただきましてありがとうございました。

 来年もよろしくお願い申し上げます。

 寒気が入り込む年末年始のようですので、どうか皆さまおからだご自愛くださいまして、良いお年をお迎えくださいませ。

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― 新着の感想 ―
ええ、ぜひ長々やってください(笑) 今年もありがとうございました。 来年も楽しみにしてますヽ(=´▽`=)ノ
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