赤い月 4
魔道具のチェックが終わり、一息つくと、私はリオンさまとともにザナン伯爵とともに、遺跡に向かう。
もちろんロイスナートさんも一緒だ。
赤い月の作った『結界』がうまく起動するかの確認作業である。
制服でお出かけだときついので、動きやすい服装に着替えてからのおでかけだ。それにしても、魔術師の調査研究って、学術的なイメージだけれど、体力勝負である。一応は貴族令嬢である私には、そこそこきつい。
「魔術師の仕事って、思ったより体力がいるのですね」
遺跡の移動は基本徒歩。別に勾配のある道ではないけれど、普段は馬車移動の人間には大変なのだ。
「貴族のご令嬢にはキツくてすみませんな」
伯爵は苦笑する。
「確かに魔術師というのは、世間のイメージより体力がいる仕事ですな。研究室にこもってばかりだと、いざという時に役に立たないし、希少な素材の採集は自分で行かないといけなかったりするからねえ」
災害時に派遣されたりすることもあるから、馬にだって乗れるにこしたことはない。研究室から出ないようにみえるタイプの魔術師でも、魔術の研究には特殊な素材が必要なことが多く、自己調達が必要なことが多くて、危険と隣り合わせのこともあるとか。
ひょっとしてリオンさまが剣の鍛錬をしているのは、単純に皇子だからというだけではないのかもしれない。
ちなみに、くだんの施設は、まだ私の行ったことのないところ。
沼人が多く生息していた人工池のそばに、それらしきものが埋もれていたらしい。
「それにしても赤い月は、ものすごい資産家だったのですねえ」
地下にこれだけのものを築いた理由はナスランの目を欺くためだろうけれど、それにしたってすごい技術と資本力。
逆に地上に残っているその時代の施設はほぼないのが不思議なくらいだ。宮殿の一つでも作っていれば、少なくとも跡地くらいはありそうなのに。
「潤沢な資金、高度な技術。魔術王国時代でも有数の勢力を持った人物だったのでしょうなあ。ですが、それを外に見せつけるようなことは避けていた。それほどまでに王国本国は怖かったのかもしれませんな」
ザナン伯爵うんうんと頷いた。
「ンシャナ・ダル・デリーバ。それが本名らしい」
リオンさまが口を開く。
「本人の手記だから裏付けはないけれど、魔術王国の王族だったようだ」
「そうなのですか」
「ああ。割と王位に近い位置の生まれらしいけれど、生まれた日が蝕の日で、忌み子として育てられたらしい」
才能も生まれもぴか一だったけれど、誕生日のせいで、玉座から遠ざけられてしまったとか。
「あくまで自称だけどね。本人がそう書いているからと言って、本当にそうだったとは限らない。商才や魔術に才があったのは間違いなさそうだけれど」
日記に噓を書く必要は全くないけれど、だからといってそれが真実だったともいえない。本人の妄想とか、空想とか、そういうこともありえる。
「ただ徹底的に冷遇されていたとしたら、この地に遺跡を築く財力を手にするのも大変だったはずだ。忌み子冷遇は本当かどうかは怪しい。とはいえ、商売とか魔力の才能があったのは間違いないけれど」
才能があって、しかもそれなりの権力と財力があったから、魔術王国から離れたこの地に広大な遺跡を作ることが可能だったのは間違いない。
「生まれた日が蝕……だから、通称が『赤い月』なのですね」
この世界では忌まれる日である皆既月食だけれど、彼にとっては自分そのものを表すものだったのかもしれない。
「まあね。最初は悪口的な蔑称だったみたいだけれど、本人は意外と気に入っていたみたいだね。家門がわりに使っていたわけだし」
「確かに悪口っぽいかも」
蝕の日に生まれたから、『赤い月』。忌み子と直接言っているわけではない。でも蝕を忌む風潮がある以上、誉め言葉ではない。
「ンシャナは、蝕の月を特別な月だと感じていた。異界の門が開いて魔力が満ちるのであれば、それこそ『特別な魔術』が使えるのではないかと考えていたらしい」
「超がつくポジティブさですね」
蝕が実際の災厄を起こす世界で、その月を特別と感じて利用を考えるというのもすごい。
「だからこそ、このような遺跡を築くことができたのでありましょうなあ。おお、そこですぞ」
ザナン伯爵が指をさしたそこには、大きく透明なものが埋まっていた。




