フィリップ
フィリップ兄さまは非常に中性的な顔立ちで綺麗な顔立ちをしている。背はそんなに高くはないけれど、クラーク先輩や兄たちと比べてというだけで、際立って低いということもない。
フィーナ殿下がフィリップ兄さまに『一目ぼれ』したとしても不思議ではないし、マルドーネ公子よりずっとカッコイイと私は思う。
成績も優秀だし、性格も私みたいな異端児にも寛大な人で、三男坊ではあるけれどランデバー家は侯爵家。社交界では引く手あまたの優良物件だ。ただ、フィーナ皇女殿下の『嫁ぎ先』と考えると、ランデバー家を継ぐわけではないので、候補からは一歩下がるという感じだけれど。
「あの時、そんなことがあったのですね」
私もドリンクコーナーの傍にいたとは思うのだけれど、なにしろ魔道灯の件でそれどころではなかった。
「リオンさまにお言葉を返すようですが、フィーナ殿下から見れば、おれは年上すぎます。気に入ったと仰っていただいたのが真実だとしても、近衛にしたいくらいの話ではないかと」
フィリップ兄さまは首を傾げる。
「そうかもしれないが、周囲の大人はそう見ていないのが問題だ」
リオンさまは苦笑する。
「フィーナ自身、マルドーネ公子の名があがっている時はどちらかといえば諦めているって感じだった。幼いからまだよくわかってないのだろうと思っていたのだけれど」
「兄さまと公子では、勝負にならないから参考にはならないと思います。フィリップ兄さまの方が断然、素敵なのですから」
もちろん貴族としての家格だけは公子に負けるかもしれない。でも他の面でフィリップ兄さまが負けているところは一つもないと思う。
「アルにそんな風に言われると、ちょっと複雑だな」
フィリップ兄さまは苦笑した。
「仮に殿下が気に入って下さったというリオンさまの推測が本当だとしても、周囲が乗り気なのは、おれではなくダビーだと思っているからです。同じ侯爵家でもダビーは跡継ぎ。三男坊のおれとは違います」
もちろんランデバー侯爵家を継げなくても、兄さまは侯爵さまから男爵位を与えられるらしい。ただ、それでは皇女の嫁ぎ先としては物足りない。
「ただ──その推測が本当であれば、ダビーとメルダナ嬢の婚約の支障はどこにもないというわけですね」
ふうっと、フィリップ兄さまは息を吐いた。
「わかりました。では、フィーナ殿下本人に、その相手がダビーなのか、おれなのかお聞きしてみればいいのではありませんか? ダビーではなく、おれであったのであれば、ダビー達は無事婚約できるでしょうし、フィーナ殿下も、もっと年の近い相応しい相手を探すことができると思います」
「すまない。フィリップ」
兄は頭を下げる。
「ただ、その推測が外れて、真実ダビーであったのであれば、お前本人が何とかしろ。正直、おれは皇族の縁談とかかわりあいたくはない」
フィリップ兄さまはちらりと私を見る。その目が少し悲しげにみえた。
呼び出しの日。
本来は私は同席する予定はなかった。リオンさまが強引にフィリップ兄さまと私、それからフィーナ皇女殿下も同席させるように陛下に直談判をした結果、レジナルド殿下、ガデリ司祭にスーヴェル皇后まで同席することになったらしい。ちなみに、兄とフィーナ皇女殿下との縁談? に乗り気なのは、どうも皇后陛下のようだ。レジナルド殿下が立太子することが正式に決まったため、娘の嫁ぎ先をしっかり決めたいとのお考えらしい。
公爵家、侯爵家の跡継ぎになる令息は私たちの世代より上に集中していて、フィーナ皇女殿下とお年が近い令息は伯爵家以下だ。もちろんフィーナ殿下自身が公爵家を賜って、家を起せば問題はないといえばないのだけれど。
そもそも、フィーナ皇女殿下が兄なのかフィリップ兄さまかわからないけれど、本当に恋に落ちているのかも怪しい。フィーナ殿下はまだ十歳になったばかりだったはず。『年上のお兄さん、かっこいいな』くらいの感情で結婚相手を決められるのはあまりにも早計な気はする。もちろんそれは私に前世の記憶があるせいもあるだろうけれど。
それにフィリップ兄さまから見れば、フィーナ殿下は幼すぎてさすがに恋愛対象に見れない気がする。あと十年、せめて五年たてば違ってくるのかもしれないけれど、十代の時の七~八年の年の差はかなり大きい。いくらフィーナ殿下が美少女でも、難しいかも。それはフィリップ兄さまの好みの問題だから、あくまで私の感想だけれど。
マルドーネ公子がマイアに入れあげていたことは不誠実ではあったけれど、恋愛対象として考えられなかったという面では理解できなくもないのだ。
それに家督は継げなくてもフィリップ兄さまは十分にモテる。
縁談は山ほどあるはずだ。
そもそも。
兄とエミリアさまの縁談が保留になっている事情は、本当にフィーナ殿下のことなのだろうか。
私とリオンさまの縁談のことがネックになっている可能性だってある。
それだといろいろやっかいだ。
「しかしこの場所はいろいろと居心地がよくない気がする……」
謁見の間に入ったのはいいけれど、私はリオンさまの隣なのだ。
皇帝陛下と皇后陛下が玉座に、その後方両脇に皇子、皇女殿下たちが座るわけで……つまり、皇族扱い。すごく落ち着かない。
椅子の座り心地はとてもいいのだけれど、非常に申し訳ない気がしてしまう。まだ結婚もしていないのに。
メルダナ公爵とエミリアさま、そしてうちの両親と兄は玉座に向かい合う形で控えている。そこから一歩下がった状態で、フィリップ兄さまとガデリ司祭がいる。
ちなみに、フィーナさまは興味深そうに兄たちの方を見ているけれど、フィリップ兄さまを見ているのか、兄を見ているのか、角度的に判別は難しい。好意的な視線にみえなくもないけれど、恋する乙女なのかはわからない。
とはいえ。親友のエミリアさまの恋心もずっと気づかなかった私に、そんなことがわかるはずもないのだけれど。
フィリップ兄さまは、無表情で俯いたままだ。
「そんなにフィリップの方ばかり見ないで欲しい……妬いてしまう」
こそりと、リオンさまが呟かれ、私は思わずリオンさまの方を見る。
「リオンさま?」
「ごめん。口に出すつもりはなかったのに」
リオンさまは私の視線に気づいて慌てて謝る。
「私──」
私とフィリップ兄さまはそういうのではないと言いかけた時、ちょうど両陛下が部屋に入ってきた。




