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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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満月 1

 ひととおり話が終わると、兄は覚悟を決めたようだった。

「メルダナ嬢と話をする。さすがにお互い当初の予定と違いすぎる」

「それは、まあ、そうかも」

 エミリアさまだって、メルダナ公爵があれほど簡単に受け入れるとは思っていなかっただろう。兄のことが好きだったにしても、戸惑いはあるかもしれない。それにこのままだと、エミリアさまは兄をだましたという罪悪感を抱く可能性もある。話し合いは必須だ。

「それでは俺はこれで」

「お父さま、お母さまによろしくね」

 リオンさまと一緒に兄を馬車まで送る。

 今日は満月のせいか、空は思ったより明るい。

「もうだいぶ遅いけれど、アルキオーネ嬢、少しだけ時間ある?」

「ええ」

 満月がすでにかなり高いから、もう深夜だ。

 幸い明日はお休みなので、多少遅くなっても構わない。

「一緒に月を見ないか?」

「お月見ですか?」

 前世日本人である私にとって、月を見ることはとても身近なことだ。

 ただ、この国ではあまり『月を鑑賞する』ということはない。もちろん月は美しいし、綺麗だとは思われているけれど。

 もっとも月見というと、団子がほしくなってしまう。前世のイベントにすべからく食べ物が結びついて記憶されている私、やはり相当な食いしん坊なのかも。

「椿宮の庭園は満月の夜、とても綺麗だから」

「はい」

 椿宮の庭園は前世の日本庭園に似ている。

 私たちは、月明かりを頼りに庭園に出た。

 太陽の光と違い、物の形はわかるけれど、少しだけ色のついたモノクロという感じで、とても幻想的だ。

 もちろん魔術を使用すれば簡単に明るくすることもできるけれど、そうすると満月の存在感がかすんでしまう。

「暗いままで歩くから、足元に気を付けて」

 リオンさまにエスコートされ、私は庭園にある東屋までゆっくりと歩いた。

 リオンさまとこうして歩くのは初めてではないけれど、それはたいてい公式の場で、人の目があるところだ。今は少し離れたところに護衛と使用人が控えてはいるけれど、ほぼ二人きり。絡めた腕からリオンさまの体温が伝わってくる。

 静かだ。

 そして、リオンさまとの距離が近い。

 絶え間なく水が流れる音がしている。

「寒くない?」

「大丈夫です」

 むしろ緊張して頬が熱い。

 私たちは東屋にある長椅子に並んで腰かける。

 まだ、椿宮の由来になっている椿の花には早いけれど、そろそろ木々が色づき始める季節だ。

「綺麗な月だよね」

「はい」

 前世の月と同じかどうかはわからないけれど、この世界の月もまた美しい。ここは地球ではないはずだけれど。

 そういえば、異性に対して月が美しいはアイラブユーの意味だってまことしやかに語られていたことをちらりと思いだして、勝手に胸がドキドキし始めた。そんなこと、リオンさまが知っているはずもない。月が綺麗は、月が綺麗だというだけの意味だ。いや、まあ、婚約者だから、勝手にそう解釈したとしてもそんなに問題はないのかもしれないけれど。一応は告白されたのだし。

「その反応ってことは、グラドと一緒なんだ」

 クスッとリオンさまが笑った。

「月が綺麗とは愛しているの意味なのにやっぱり誰にも通じないと、大魔術師グラドが残した日誌に書いてあった。なんのことかわからなかったけれど」

「大魔術師グラドがですか?」

 それは、魔術師の塔に保管されているグラドの日記に書いてあった謎の文章らしい。

 いわゆる白物家電を発明しまくったグラドなら、きっと前世の記憶があったのだろうとは思っていたけれど。まさかの日本人だったのかな。欧風の世界なのにちょくちょく日本にあったものが混じっているのは、そのせいもあるのかもしれない。

「それって、結局どういう意味?」

「ええと」

 この「月が綺麗」逸話。夏目漱石先生が英語教師だった時に「I love you」を訳す時に日本人なら『月が綺麗くらいで充分』と言ったとかいう逸話なのだけれど、出典がはっきりしているわけではない。とはいえ、明治時代の人間はそれくらい『シャイ』だったのだろう。

「有名な文豪が異国の『愛している』という言葉を翻訳するとき、直接的に『好き』を伝えるのは図々しいからと考えた言葉だそうです」

「でも……伝わらないよね?」

 リオンさまは首を傾げる。

「ええ。そうですね」

 この『月が綺麗』イコール『愛している』は、ロマンティックではあるけれど、双方がその意味を知っていないと完全に空振りだ。

「好きって言葉そのものを伝えても、気づいてもらえない可能性だってあるのに、それでもいいのかな」

「その文豪が生きた国と時代は、愛を大っぴらに語ることは恥ずかしいと思われていたのです。言葉がなくても通じ合うことが美しいみたいな感じでしょうか」

 男性は黙して語らず、女性はただ男性の後ろを付き従う、それが美徳とされているような時代だった。とはいえ、本当に黙して語らなかったり、ただ従っていたわけではないとは思う。人同士の関係なんて、たとえ親子でも会話をしなければ、わからないことは大量にあるのだから。

「言葉がなくても通じ合う、ね」

 リオンさまは苦笑する。

「私は嫌だな。たとえ言葉がなくてもわかりあえていたとしても、好きだという気持ちは伝えたいし、知りたい」

 リオンさまがそっと私の体を引き寄せる。

「前にも言ったけれど、私は君が好きだから、そう伝え続けたい。でも、君にそれを強制することはできないから──せめて、月が綺麗だと言ってくれないか?」

 リオンさまの手が、私の頤にそっとのびる。晴れ渡った夜空色の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

「月が……綺麗、です」

 震えながらそう呟く。そう。いつの間にか、というより、きっと初めて会った時から、この瞳に惹かれていた。

「ありがとう」

 リオンさまは優しく微笑み、唇で私の唇をそっとふさいだ。

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うおおおおっ!.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
「君の作った味噌汁を毎朝食べたい」よりも難易度が高いですよね。
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