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呆気に取られて、返信できなかった。そんな僕に、追い討ちをかけるようにもう一通メールが届いた。
―自分が誰かを当てられてしまった場合、それを認めるのは違反にならないよ。
―違うってば。それに、自分が誰かなんて言うわけないじゃん。
とりあえず、ごまかして乗り切りたい。自分が誰かバレるのは不利になるに決まってる。
―ペナルティのことなら気にしなくていいよ。まぁ、違反にもならないから今は関係無いけどね。
とにかく、ペナルティなんてあってないようなもんだから。
それに、新入り君には別に敵対する人間も、味方の人間もいないでしょ。
あと、話し方変わってるよ。キャラ変えるならしっかりやりなよ(笑)
敵対する人間、味方。そういえば、そのことについてはよく分からなかった。
完全に自分が誰かばれてしまった以上、とことん聞いておいた方が得策だろうか。
―じゃあ、認めるよ。
敵対とか、味方とか、よくわからないんだけど、何なの?
―お、素直でいいね(笑)
グループがあるんだよ。まぁ、クラスと一緒でさ、一緒に行動するグループがあるの。
最初に挨拶送られてきたでしょ?あれは、合言葉なの。
特定の言葉を返してきた人は同じグループ。それで、簡単に組めるの。
―合言葉ってことは、誰か特定できるんじゃないの?
自分が誰か明かしちゃいけないんじゃないの?
―頭悪いねー。
グループって言ったでしょ。だから、その合言葉をいえる人間も答えられる人間も複数いるの。
同じグループの人ってまでは特定できても、それが誰であるかまでは特定できないでしょ。
それに味方が違反してたって別に報告なんてしないしね。
なんとなく、MTの攻略法が分かってきた。
グループで情報を集めて、勝ち抜く。MTにはグループが欠かせないんだ。
―合言葉を振る人は?事前に決めたりはできないでしょ?
―それは、自主的にやるの。だから、たまに同じ内容のメールがあるんだよね(笑)
内容が全く同じだったら、そいつらは同じグループだってばれるから少し不利になるの。
まぁ、うちのグループはいっつも特定の人がやってるけどね。
どうせ、誰も違反だって言わないし、そっちの方が楽だし。
―わかった。教えてくれてありがとう。
グループってさ、どうやったら入れる?
―どういたしまして。
グループは誰かに合言葉教えてもらうしかないかなぁ。うちのとこは男子禁制だから無理。ごめんね。
男子禁制ってことは、mellowのところはみんな女子なのか。
―そっか、ありがとね。
―どういたしまして。
この一ヶ月中に、どこかのグループに入らなきゃいけない。これが、まずすべきことだ。
でも、どうやればいいんだろう。
グループに入りたいと言うと、入っていない人に特定される。最悪、自分ひとりってこともある。
ペナルティは特に関係ないって言っていたけど、実際のところはどうなのだろう。
グループ同士でどういうやり取りがあるのかが分からない以上、ヘタに行動しないほうがいいだろうか。
とりあえず、挨拶の一部には返答した方がいいことが分かった。そうすれば、ある程度は特定されづらくなるだろう。
たぶん、mellowのグループの人達にはバレているだろう。
mellowがグループの人達に伝えたって、それを報告する必要なんて無いのだから。
―転校生君かな?summermusicから始まるアドレスに注意しときなよー(笑)
mellowとは違うアドレスからメールが着た。mellowと同じグループの人間だろうか?
―注意って、何で?
―んー、なんていうかなー。とりあえず、野蛮なヤツだから気を付けてねー。
―分かった。忠告ありがと。
たぶん、summermusicってやつが、mellowのところと敵対しているんだ。
野蛮ってことは、男子って考えるのが妥当だろうか。
僕は、summermusicから始まるアドレスを探してみた。
あった、過去に一通来ていた。
―皆さんの善戦を期待しようじゃないか!
グッドラック!
最初に来たメールだ。
たぶん、合言葉の振りなのだろう。summermusicもグループの一員ってことだ。
summermusicのグループの構成は基本的にmellowと敵対している人達だろうか。
わざわざsummermusicの名前を出して注意を促すってことは、summermusicがリーダー格の可能性が高いのかな。
少しずつ、大まかな特定ができてきた。
mellowのグループは女子の構成。たぶん、summermusicのグループの構成のほとんどが男子だろう。
一グループは三人以上で、だいたい五、六人くらいいるのだろうか。
だとすると、グループがあと三つほどあると考えても良い。
ギャル文字を使っていたメールを出したグループ、敬語を使っていたメールを出したグループがあると考えるのが妥当だろうか。
どちらも、女子のメールに見えたが、クラスの男女の比率はほぼ同じだから、どちらかが、男子の可能性もそこそこ高い。
summermusicのグループに十人ほどいる可能性も少なくはないが、だとしても小さなグループがもう一つあるだろう。
男女混合チームもあるかもしれない。そこに入るのが妥当だろうか。
僕は、新しいゲームをしているような感覚になっていた。
推理ゲームは嫌いじゃない。このゲームは相手がコンピューターじゃない分、とても難しい。
それに、MTはグループ対抗のゲームと一緒だ。
敵対するのはグループ同士。どこかを攻めるも、グループで攻める。守る時も、グループみんなで守る。
MT。最初はわからないことばかりだったけど、面白そうだ。
そんなことを考えているうちに、一通のメールが届いた。
summermusicから始まるアドレスだった。
―初心者君だよね?
同じクラスにいるさ、安原ってウザくね?