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MT  作者: あだぞら
3/15


メールに少し見入っていた。

三十四のアドレスで、自分の分を除いて三十三。

この中から、誰かを特定することなど、可能なのだろうか。しかも、メールで。

気付いたら、時計は七時五十九分になっていた。

もう、始まる。

携帯の時計が、八時を示した。


その数秒後、一気に、八通のメールを受信した。

どれから開けばいいのだろう。徐々にメールも増えていく。

一番初めのメールを開く。


―皆さんの善戦を期待しようじゃないか!

 グッドラック!


複数人に送っている。これを全員に送っているのかもしれない。あいさつ…かな?

男子?いや、男子のフリをしている女子かもしれない。

考えているうちに、更に四通のメールを受信していた。

考え事なんて、してる暇無い。


―また一からのスタートですね。

 みなさんどんまいです(笑)


―転校生の善戦に期待。


内容の全く違うメールが何通も届いた。一応、一通り、目を通してみる。

ギャル文字や敬語。特徴ならいっぱいある。なのに、全く断定できないのはどうしてだろう。

僕だって、ギャル文字ぐらい使おうと思えば使える。敬語も、ですますを付けるだけだ。

男子か女子かの特定すらできない。MTって、こんなに難しいんだ。僕はその異質な空気にただ呆然としていた。

僕は、返信をするのをためらっていた。

もし、下手に返信してバレたらどうしよう。上手く、言葉を使いこなせるかも分からない。

絶え間なく届くメールに目を通すことしかできない。でも、それが誰なのかなんて、分かるわけない。


しばらくすると、受信するメールの量がだんだんと減ってきているのを感じた。

最初は見るのも追いつかなかったのに、今は受信するのを待つようになっている。

あいさつが一通り終わったからだろうか?

受信したメールを確認する。二十通。ダブりはないから、残りの十三人は挨拶してないってことか。

受信メールを確認している間、新しくメールを受信することは無かった。

僕も、メールを送ることは無かった。


「夕飯、食べれるわよ」

母の声に驚いて、慌てて携帯を隠してしまった。

「あ、うん。すぐ行く」

僕はそう言って、携帯を閉じた。

部屋を出ようとドアに手を掛けた時、MTのルールを思い出した。

このシステムを口外しないこと。

僕は、携帯にロックをかけてから部屋を出た。

「ごめんな。昨日遅かった分、早く帰ろうと思ったんだけど」

父はさも、申し訳無さそうに言った。

「別にいいよ。明日は遅くなるの?」

僕は言いながら椅子に座る。

「明日も早く帰れるように頑張るけど、今日みたいな時間になると思うから先に食べててもいいぞ」

「そっか、分かった」

「…新しい学校はどうだ?すぐに馴染めそうか?」

父は少し聞きづらそうに聞いてきた。

「うん。大丈夫。明るいし、賑やかだし」

言っている最中、あのピリピリとした雰囲気を思い出した。もしかしたら、明るいフリをしているだけかもしれない。

MTは難しい。男子か女子かの特定すらできない。でも、あんな雰囲気にまでなるようなものだったかは分からない。

「そうか。じゃあ大丈夫だな」

いじめられる心配はないな。そう言いたいのだろうか。


「ごちそうさま」

そう言って時計を見ると八時四十五分になっていた。携帯は二十分近く置きっ放しになっている。

あいさつのメールが一通り終わって、僕は誰にも返信していないから、メールは、入ってないだろうけど…

自分の部屋に入って、携帯を開く。

メールが一件、入っていた。


―新入りだから、何も分からないんだよね。

 かわいそう。


…え?

新入り?なんで?バレてる?

何もしていないのに。僕はメールを出していないから、文章を見て特定なんて、できるはずないのに。

まさか、何もしていないから、特定された?

でも、メールを出していない人は十三人はいるはず。その中から僕だけにメールを出しているのは何故?

返信…?他の十三人は、返信を…?

僕は混乱して、わけが分からなくなっていた。

ただ、このMTの世界で、正体がバレることがあまりいい影響を与えない、ということは分かる。

僕は、急いで返信した。


―新入り?えー、違いますよぉ。

 意識しすぎじゃないですかぁ?


なるべく、他人を装って。そして、なるべく、性別すら特定できないように…

僕の心臓は高鳴ったままだった。まさかこんなに早く特定されるなんて。

僕が、誰が誰だかもわからないうちに、他の人達はどれだけの人数を特定しているんだ。


―あれ?あたしには、ちゃんと返信してくれるんだね(笑)


…僕が返信をしていないこともバレてる?

このmellowから始まるアドレスの人間は、どこまで分かってるんだ。

他の誰かには返信したかもしれないという可能性は?どうやってその情報を?


―ちゃんと返信してますよぉ(怒)


―あれぇ?おっかしいなぁ。

 あたしが確認した限り、メールのやり取りしてないの、あなただけなのになぁ。


どうして…どうしてバレてるんだ。

他の三十ニ人のメールは確認したということか。

返信のみの十三人の情報はどうやって?ひとりひとりに聞いていったと言うのだろうか。

それなら、僕のところにも確認のメールが来ていてもおかしくない。なら、なんで?

たった四十五分で、見破られた。

たった四十五分で、見破ることができる。

まだ僕は、何も分かっていないのに。

まだ三週間もあるのに。一体、どうなってしまうのだろう。



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