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MT  作者: あだぞら
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今年の四月、原木君が転校してきた。

あたし達は新しいクラスになったばかりで、知らない顔もいっぱいあって、それでも転校生の存在はなんか特別な感じがした。

原木君の第一印象は"いい人"

暗くはないけど、調子に乗った明るさも無かった。クラス替え直後ってこともあって、みんなと馴染むのも早かった。

「ねぇ、面白いゲーム知ってるんだけどみんなでやらない?」

ある日、原木君が提案した。それが、MTだった。

あたし達の学校は授業中じゃなければ携帯を使っても構わなかったから、ほぼみんなが携帯を持ってる。

あたし達のクラスはちょうど、全員が携帯を持っていた。そのこともあって、MTは始まった。

初めてMTをやったとき、相手は知ってる人のはずなのに、まったく知らない人と話しているみたいな不思議な感覚だった。

あたし達はその感覚が新鮮で、楽しくて、MTというゲームを素晴らしいなんて感じてた。

でも、しばらくすると、MTで愚痴や悪口を言う人達が出てきた。嫌いな先生のこと、親のこと、そして、同じクラスの人のこと。

ある時、MTで悪口を本人に言ってしまうということがあった。相手が誰か分からないのに同じクラスの人のこと言ってれば、そのうちなるのは分かってたのにね。

悪口を言われた人は当然怒って、誰か突き止めようとした。そんな風にして、みんなで、特定が始まった。

情報を共有するためのグループもできて、グループで行動するようになった。

そして、ターゲットができた。


「最初のターゲットは新川凛。まぁ、知らないだろうけどね」

畠さんはそう言って小さく笑った。確かに、知らない名前だった。

「平城からは、ターゲットができるまではだいたい聞いたよ」

でも、それ以降のことは言わなかったし、まして新川って名前は出てこなかった。

クラスにいないってことは、平城の言っていた転校した人ってのがその新川って人なのかな。

「まぁ、そうだろうね。平城君の大切な人だもん。凛は」

大切な人。ってことは、平城は、大切な人がターゲットにされたから、MTを壊そうとしているってことになるのかな。

「大切な人…って、付き合ってた、みたいな?」

「そんな感じかな。本人は、それ以上だって言ってたけどね」

「本人って、平城が?」

だとしたら、意外だ。

「凛の方だよ。一応…同じグループだったんだ」

畠さんの声が少し沈んだ気がした。

「その人って、ターゲットにされたんだよね……なんで?」

僕がそう言うと、畠さんは目をそらしてうつむいた。

「…あたし達が、凛をターゲットにした」

畠さんは、そう言って小さく息を吐いた。



「凛だけどさ、最近平城のことばっかじゃない?」

四人くらいで歩いてたときに、クミが不意につぶやいた。

「アツアツってことじゃん?羨ましーねー」

「小学校の頃から仲良かったもんねー。でも、最近はほんと遊んでくれないよね」

あたしは、この雰囲気が少し怖いなんて思ってた。あたしは凛とは仲が良かったし、普通に好きだった。

「彼氏できたらみんなあんな感じでしょ。あーあ、あたしも早く彼氏ほしーなぁ」

あたしは話題を凛から逸らそうとしたけど、うまくできなかった。

「そうだ!次のリセットの時にさ、凛だけグループに入れなかったらどうなるのかな?」

クミがそう言った時、あたしの鼓動が一気に早くなった。

「えー…それはヤバイんじゃない?」

あたしは震えそうな声を必死に抑えて言った。

「大丈夫だって。だってただのゲームじゃん」

「そうそう。そこまで本気にしないっしょ」

ゲームの中でも、それはいじめだよ。

あたしは怖くて言えなかった。


次のリセットの時、凛にはわからないように、みんなで合言葉を変えた。

凛だけグループから外された。この情報はすぐにみんなに知れ渡った。他のグループが面白がって、凛に冷やかすようなメールを送った。

凛は、ターゲットにされたんだ。

「…ねぇ、何であたしだけ合言葉教えてもらえなかったのかな?」

凛は、誰もいないところであたしに聞いてきた。

「凛が平城君のことばっかだから、みんなが合言葉変えようって…」

「どうすればいいの…?悪口のメールもたくさん来るし…誰も応えてくれないし…」

凛はもう泣きそうだった。あの時、ちゃんと止めれてたら…あたしは胸が痛んだ。

「平城君には相談してないの?」

わざとらしい声で、あたしは言った。これじゃ、みんなと同じじゃん。

「できるわけないじゃん…なるべく心配かけたくないし、何かするとしたらミエ達が相手になっちゃうじゃん…」

その言葉を聞いて、やっとわかった。

あたし達は、凛の敵になっちゃったんだ。


凛はたくさん傷ついて、大切な人にもいっぱい嘘をついた。

平城君がMTでのいじめを知ったのは、凛がターゲットにされてから、一週間もたった頃だった。

あたし達は問い詰められて、初めて本気で怒る平城君を見た。

それでも、クミは携帯のサウンドレコーダーでそれを録って、原木に報告してた。

『たかがゲームじゃん』

そう言って嘲笑ってた。


凛は学校を休むことが多くなった。

でも、学校を休んだって、MTでのいじめから解放されることなんてない。

凛にとって地獄だった一ヶ月が経って、リセットが行われる時、凛はゲームに参加しなかった。

それが原因で、凛はクラスの浮いた存在になってしまった。

空気が読めないとか、適当な理由をつけて、本当のいじめが始まってしまった。

平城君は最後まで凛をかばってて、あたし達はゲームの延長みたいに、凛をターゲットにしてた。

凛は、親の仕事の都合で転校することになった。それが偶然なのかどうなのかはよく分からないけど、先生達には何も見えていないみたいだった。


「…ごめん」

あたしは傍観者だった。

いじめに加担することはなかった。でも、いじめを止めようともしなかった。

自分がターゲットにされるんじゃないかって、怖かった。

「MTって、怖いね」

凛は、皮肉っぽく笑って言った。

あたしは、なんて声をかけたらいいのか分からなかった。

「あたし達、友達だったのにね」

凛は小さく言った。

あたし達は、もう友達でもなくなってた。


それから平城君はMTを壊すために孤立した。

それで平城君がターゲットにされたこともあったけど、平城君は何の反応もしなくて、つまらないからってすぐに終わった。

そのあと何人もターゲットにされて、MTでのいじめは続いた。

MTはもう、ただのいじめのゲームでしかなくなっちゃった。



「MTをどう思う?」

畠さんは僕に尋ねた。

「いらないよ……こんなゲーム…」

新川さんにも、平城にも、今までターゲットにされた人にも、同情してしまう。かわいそうだって思ってしまう。

「じゃあさ、これから一緒に―――」

畠さんの言葉がまっすぐ僕を向いた。



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