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小柴ミラクルマルチバース  作者: 夢骨とみや
断章(談症) 曳かれ者のシンフォニア
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談-2 enrollment

 禊、という言葉がある。原義は、神道において罪や穢れを削ぎ落とすべく身を清める儀式のことだけど、その「罪や穢れを濯ぎ落として再び神の道に殉ずることを誓う」という特性から、二次元では、何か悪いことをしたキャラクターが主人公パーティに入る前にひとしきり過去の自分の悪行によって苦しめられること。

 それから、ぼくはよく知らないけれど──三次元では、なんらかスキャンダルのあった芸能人が、再びブロードキャストに乗るために受けるベテラン芸人からのいじりや放送作家からの嫌がらせ、のことを言うらしい。


 それに対する正直な感想は、くそくらえと言ったところである。


 ぼくだって、悪いことをしたやつが何のリスクも犯さずに光の側に立つのはムカつく。が、それにあたり罪悪感を抱いて償いをするかどうかを決めるのは、あくまで本人、あるいはその人物を受け入れる『チーム』側の人たちであるべきだ。少なくとも、すべきなのは自分の罪に対する真っ当な償いであり、誰に向いているかも不明な、ただ無関係な第三者の気持ちをすっとさせるだけの『禊』じゃない。


 お前らみたいな下衆がいるから、そいつだって悪事に手を染めざるを得なかった場合だってあるんじゃないのか?


 ……と、ぼくは未だにこういうことを考えてしまう。自分のしたことについて反省はしているつもりだけれど、正直、誰から見ても「おお、反省しているなぁ」と思ってもらえるとは考えてない。「なに考えてんだよこのイカレ野郎が」と殴られても仕方ないと思っている。


 そして、ぼくはそれでいい。

 ぼくは正直、ぼくを憎む誰かに殺されたっていいのだ──個人的にそう思うだけで、実際にその権利があるのはおねえちゃんくらいだとも思うけれど。そしておねえちゃんは、結局、ぼくを生かした。


 不本意ながら生かされてしまった。

 根っこの人格自体はそんなに変わっていないのに。


 ぼくは正直、ぼくを苦しめた人間たちのことはいまでも憎いし、怖い。ぼくが地獄に落ちればいいのはその通りだけれど、だからと言ってあいつらが天国に行ければいいなんて願うはずもないだろう。そして実際、ぼくがあのときやろうとしていたのは、そういうことだったようにも思う。


 じゃあ、ぼくはなぜ世界を滅ぼすことをやめ、いまもこうして平和におねえちゃんと過ごすことを選んだのだろうか? その答えは、申し訳ないけど至極単純である。



 生きてみたいと思ったからだ。



 あるいはおねえちゃんのことが大好きで。

 あるいはおねえちゃんのことが大嫌いなんだろう。


 「シスコン大魔王」という、あまりにバタバタしすぎていつ誰に言われたのかの記憶も曖昧な言葉があるけれど(まさかおねえちゃん本人ではあるまい。だとしたら恥ずかしすぎる)──本気で呼ばれるなら、ぼくは生涯その誹りを受け入れよう。


 少しでも長く、彼女と一緒にいたいと思った。

 少しでも楽しく、姉と一緒に生きたく願った。


 おねえちゃんに危害を加えるものがあれば、ぼくは塵ほどの躊躇もなく裁きを与える。

 おねえちゃんの友達をひどく追い詰めるやつがいれば、ぼくは義理ほどの理由もなくそいつをこの世界から排除する。

 立場的には絶対に「裁きを与える」とか「排除する」とか言ってちゃいけないのはさておき、これだけIT化の進んだ社会だ──正直、アグトオーズの力がなくても、電子工学のスキルがあれば大抵のことはできてしまう。


 ぼくの本質は悪だし、闇だし、病みだ。

 おねえちゃんに勘違いされたくなかったのは、その辺りのことである。


「けど、『罰』って言われちゃうとなぁ……」


 ぼくは未だバリアフリー化の進んでいない凸凹の道を、久しぶりの朝出動でそれなりに苦心して渡りながら──はて、いったいどこへ向かっているのだろう──ひとり、つぶやいた。


 たぶんこれは、『禊』でも『償い』でもない。

 大いなるやらかしをしたぼくに与えられた、『保護観察期間』であり、『テスト』なのだ。


 ゆえに、結論。

 あるいは到着。


「……でっかいなぁー」


 ということでやって参りました、市立鏡ヶ丘中学校。

 えーと、朝八時。ここにいまから通うんだなぁ。


 生まれつきの下半身不随で電動車椅子に乗った、元ラスボスが。


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