小柴ミラクル凱旋
きわめて個人的な話だけれど、最近、長い休眠状態から目が覚めた。しかしちょっとわけあって烈火のごとく忙しい。みんなに謝ったりとか関係者に話をつけたりとか色々とやらなければいけないことがあり、ゆえにそんなことを話している場合でもないので、まずはこの先の展開について、ちょっと考えてみたいと思う。
以前、私は神を信じこそすれ、信用はしていないと書いた。
それはまぁ、私自身の出自に依るところが大きいのだけれど――しかし遡ってみれば、このとき、私たちは重大な問題を見逃していたように思う。
つまり、信じるとは何か。
解釈によっては、それは希望。さぁ、遡った時を少し進めると、私がその『友達』の次に会った『後輩』は、元の世界の住人たちに――自分が守護る星に棲む人々に――『信仰』されていた。神様として、崇め奉られてきた。その重圧と義務がきっかけとなり、私はあの懐かしい事件に巻き込まれたのだった。
また時を進めると、次に行き遭った『相棒』は、難事件の謎を解くコツを「世界を信じることだ」と告げた――この世界はいつかすべての謎が解けるようにつくられている、と信じることが大事なのだと。
次に会ったのは本物の神だった。または、本人の言を引用するなら、世界の『管理者』。そいつによると、世界は元々『創られる』ものだという。
最後。
私たちが全平行世界の総力を挙げて戦い、打ち倒したのは、一つ上のレイヤーの世界に位置する『邪神』だった。
そして――ほかならぬ私のルーツも、そいつと同じだ。
まぁ郷愁めいたキャラクター紹介はこんなところにして、そろそろ『素晴らしき未来』にに進まないといけないけれど――あるいは、進みきった時間に対するつけを払わないといけないけれど――何分、大事な瞬間のことで、いつまでも考え込んでしまう。なにが言いたいのか今一度整理すると、そう。
あの話の中で、語りのこしたことがあると思ったのだ。
すべてを語り終えたつもりだった。すべてを語り明かしたつもりだった。あの物語さえ、あの記憶さえあれば、もう大丈夫だと思った。究極的な話、私の存在非存在にかかわらず、みんなが生きていけるようになった。……だけど、それは間違いだったのかもしれないと、いまになって思う。
――世界を信じること。
小柴未来来の物語は、じつはその一点で簡単に総括できた。だけど、この『信じる』ということについて、私はいまいち具体例を挙げることができていなかったな、と思うのだ。それがこの期に及んで、急に、心残りとして浮上してきたのである。
私は誰かを信じることを、相手の重荷にならないように遠慮してしまうタイプだから。
無償の神事こそすれ、無性に信じることはしない。
さてさて。
そんなところに舞い込んできたのが、例の提案だった。
第二部を始めないといけない。
蛇足的新番組を始めないといけない。
だから、これからお聞かせするのは、偽者の物語だ。
十人いれば重任を立てる。
千人いれば専任を立てる。
万人いれば番人を立てる。
その誰もが口を揃える、決して親切ではない偽者の話。
どうしてあの子と私は寄り合ったのだろう、と考えるときがある。色々と考え方はあるかもしれないけれど、答えは自分の中で決まっていた。私はただ、すでに証明された公式を、あるいはそのたしからしさを、頭の中で何度も何度も検証しているだけだった。
あの子はヒニンゲンに憧れて。
私は――ニンゲンに、憧れた。
だから結局、『それ』が哲学と宗教との対決だったということは、ここまでくれば誰もに想像がつく。ものがたりは、非凡に夢見がちな少年のそれに始まり、長い長いパスを経て、やがて私のもとへと届く。そのとき私が抱いた感情は、ただし底なしの空虚だった。理想が打ち砕かれたかのような暗澹であり、そう――だから彼女は、その点では今回の件には不適格だったのだと思う。
あるいはもう一人の彼女ならば、その条件を軽々と満たしてしまっていたのかも知れないけれど。
ああ、ところであなたは「自分のやったことに対してつけを払うべきだ」という言葉について、どう思うだろうか。
少し前まで私もそんなことを思っていた。一度始めたモノは、終わらせなければならない。コンピュータが命令を無限ループさせて自壊するのは、ほかならぬ人間の咎であり、業なのだ。自分が始めたことは、ほかに影響が及ばないように――閉じなければならない。
物語として、綴じなければならない。
けれど考えてみれば、あのときどうして考慮しなかったのだろう?
せっかく綴じたその本に、続きが出ることを。
あるいは、それを読む読者がいることを。
数多の前借り。
塵芥の逆張り。
だけど、そのつけを払うためには――また物語を始めなければならない、ということで、そろそろ時間切れ。最後に数節、言うのならば。
何も心配しなくていいのだ。
きっとそうして『世界』は生きる。
誰かを信じるというなら、裏切られても動じてははいけないから。
何かを信じるというなら、事が切れても如何しては言えないから。
この言葉を言うのも久しぶりだけど。
ふさわしい花束を、あの子に託そう。
さあ、すぐに始まるよ、主人公さん。
――開幕。
《あとがき》
正直どんな惨たらしいスベり方をしても続編は書いてたと思いますが、これから始まるでっかい話がこんな形になるのは、まぎれもなくこのシリーズを愛してくださるみなさんのおかげです。感謝とともに、です。
色々焦ったり、色々仕掛けてたり。そんな感じだった思い出深い前作より、今回はだいぶゆっくり更新していきます。あとがきは気が向いたときに素の感じで書きます。
そのぶん長く、お付き合いいただけましたら。
やり残したことはたくさんありますから。
第一部『マルチバース』に引き続き。
第二部『アイドルダンス』、はじまります!




