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本性を隠した領主は狼少女を愛でている 番外編

作者: 皇洵璃音
掲載日:2024/05/04

フィリアの領主となり七年が経過した。

成人にならない限り、絶対に手を出すことはないと宣言していたグレーテルも大人になった。

卒業してすぐに結婚を約束し、無事に式も終わらせた。

最初はぎこちなかった初夜も、想いが止まらず抱き潰してしまい現在自己嫌悪に陥っている。


「いきなりがっつくとか、童貞か俺は……」


グレーテルの身体を綺麗にした後に、ベッド脇に座り落ち込んでいた。

いや、確かに童貞ではあった。二十七歳になっても、女性との身体の関係はなかったから。

それでもやりすぎたとは思っている。

途中からグレーテルが気を失っても、引き抜くことなくし続けていたからだ。

とても本人には言える内容ではない。

大きなため息を吐くと、真正面から小さく笑う声が聞こえた。

視線を向けるとそこには、神狼フェンリルの姿がった。


「……なんですか、童貞拗らせた男の懺悔が楽しいんですかね」

『そう落ち込むな若者よ。長年性愛を向けた相手に対して、自制してきたのだ。致し方ないことだ』

「実際にお会いするのは、今回が初めてですが……以前俺の夢の中で話しかけられていましたよね?」

『おや、よく覚えていたな。如何にも、我の声に違いない』

「……フェンリル、あなたの願いは叶いましたか?」


領地に戻るきっかけとなった声の主、フェンリルはゆっくりと俺の傍に近寄る。

身を屈めて、足の甲に口先を付ける。忠誠の証だ。


『我はその少女と同じ者。少女へ向けられた真っ直ぐな無償の愛。感謝しかない』

「……んー、俺はただグレーテルが愛しいから愛していただけなんですけどね」

『見返りを求めぬ愛こそが、無償の愛だ。少女を保護した時からずっと愛情を向けていただろう?』

「歳を追うごとに性愛が芽生えた件については……?」

『それは人として当然の本能だ。それに……今更少女を手放せと言われても、そなたは拒絶するであろう』

「当然です。地位も名誉も金銭も、何もかも放り投げてでも手放す気はありません」


ククク、とフェンリルが笑っている。

こうして普通に会話すると、本当に大罪を犯したのか疑問に思うくらい自然に話せる。

どうして邪神側に着くことが罪だと分っていても、無償の愛を欲したのだろうと考えてしまう。


『我が無償の愛にこだわる理由が気になるか?』

「え、あ……す、すみません。今更言及しても仕方がないとは思うのですが……」

『良い。神というものは、皆自由奔放だ。故に、神自身の想いもまた一方通行になりがちだった』

「……ルカを殺した邪神も、主神様の愛を独占したいという願いの元に行った凶行でしたよね」

『左様。強い独占欲に呑まれ、邪神堕ちした。その経緯を知りながらも、我も主神様からの愛を欲した』

「そのことについては、主神様はご存じなのですか?」


フェンリルは、ふるふると首を横に振る。

どうやら弁明の余地なく、消滅へと追いやられたらしい。


『邪神を利用し、哀れみを感じて欲しいと願った。しかし、主神様は哀れみどころか、怒りの鉄槌を下してきたのだ』

「それが、心残りで……」

『辺境の地に追いやられたフェンリル一族には申し訳なかった。それでも、我は無償の愛への強い心残りがあった』

「心残りの結果が、フェンリルの生まれ変わりが存在するのですね」

『左様。しかしそれも、今代にて終わりだ。こうして、神の眷属の末裔から、欲した者を与えられたのだ』


もう一度、フェンリルは頭を下げる。

とても感謝してくれているのだとわかると、なんだか可愛らしい。

思わず頭を優しく撫でると、嬉しそうに鳴いていた。


『さて、我はもう消滅する。その少女と共に幸せにな』

「あ、フェンリル。ひとつ知りたいことがあるんだが、いいだろうか?」

『我で答えられるものならば』

「俺の中に、神力があったりするのか?以前、グレーテルが俺の両目が金色になったと言っていたんだ」


ふむ、と考えた後。フェンリルは一度目を瞑り、大きく見開く。

その両目は金色になり、両目から何かの魔法陣が出ていた。もしかすると、神力の鑑定かもしれない。

再び目を閉じ、また目を開けると大きく頷いた。


『ふむ……確かに、そなたには神力がある。しかし、シェファにより封印の魔術式が施されているようだ』

「え?母様が?なんでまた……」

『神力持ちというのは、神格と同一視される。それ故に、神格独自のルールに縛られてしまうためであろう』

「えぇ……誰かに譲渡したりとかできないんですか……?」

『そなたの一番上の上司である四代目国王が、神力の譲渡が出来るぞ』

「え、あの人凄すぎないか?わかりました、相談してみます」

『……四代目国王もまた、我らと似た罪を背負った者。大きな恩情を受けてはいるとはいえど、最期の罰は惨いものだな』


今まで神力を持っている、なんて言われたことがなかったけど余計なことに巻き込まれる前に渡してしまおう。

そう考えていると、フェンリルが小声で何かつぶやいていた。

最期の罰とは何のことだろう。確かに四代目国王はやってはならないことをしてしまってはいるが、服従の首輪だけが罰ではないんだろうか。


「あの、フェンリル。四代目国王陛下の最後の罰とは……?」

『……王城の奥に、王族のみが行ける世界の聖域がある。そこには世界を守る大樹が鎮座しているのだ』

「聖域があるのは知っていたのですが、樹があるんですね……」

『四代目国王は、死後にその大樹へと捧げられる。世界が終わる時まで永遠に神力を搾取される神の贄となるのだ』

「……は?で、でも死んだら神力もなくなるのでは?」

『違う。神力というものは、魂に蓄積された特殊な力。すなわち、魂は黄泉に行くことなく力を吸われ続ける』


恐ろしい最期の罰を聞いて、血の気が引いていく。

死んだ後の魂ですら利用され続けるのが、まだ恩情のある罰なのだろうか。

確かにこれは惨すぎる。俺は思わず顔を顰めてしまった。


『四代目国王は知っておる。最期の罰もな。本来、神格が邪神堕ちすると黄泉の牢獄へ永遠に幽閉される決まりなのだ』

「黄泉の牢獄……それが、フェンリル一族が隠れ住んでいたところの近くにあった大谷……?」

『その通りだ。黄泉の牢獄から逃げ出した邪神は消滅したが……どうやって抜け出したのかは、誰にも分らぬこと』


だから、泣くな。そなたが悪いわけではない。

フェンリルがそう言いながら、俯いてしまった俺の頬をペロ、と舐める。

似た罪を犯したからこそ、言いにくかったのだろう。


「……ありがとうございます、フェンリル。やっぱり、神力の譲渡はしないでおきます」

『……譲渡するしないは、そなたに任せよう。それではな、審判のリーガルよ』


ゆっくりとフェンリルは後ずさり、そのまま光の粒子となって消えていった。

最後に言われた「審判のリーガル」という言葉が気になったけど、今の立場を考えるとそれはそうかもしれない。

四代目国王の結末に関しては、誰にも言わないでおこう。

きっと、あの方は時が来れば打ち明ける時が来るはずだから。


「あー……もう、神様たちってめんどくさいんだなぁ……」


そんなことをぼやきながら、俺はグレーテルの眠るベッドに潜り込み一緒に眠りに落ちて行った。



(終)


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