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森の秘密の場所

作者: 木田 梅子

ある森の前に立って、左手の親指と人差し指で円を作ったらそれを森の先まで覗き込む。

そうして、だんだんと円を小さくしていって、ずっと先を覗いていると、やがて小さな木のドアが現れてくる。そのドアを心の中で手前に引くと、僕はもうその中にいる。

ドアを閉める。

「やあ、しょうたろう今日も来たのかい」

左側からネズミのピッチが分厚い本を脇に抱えながら歩って来た。僕の隣にある小さなテーブルにその本をドカンとおいた。

「はぁ、この本はいつも重い」と言いながら。

そうして31ページを開いた。

それと同時に、今度は奥からガチャっと言う音が聞こえて、誰か入ってきた。何かちいさな声でごにゃごにゃ言っている。

「32✖️3 、32✖️3。はぁ、なんと難しい問題なんだ。つる吉、お茶を持って来ておくれ。」

入ってきてのは、まんまるに太った亀だ。平たい板をバチバチたたいている。


斜め右側の壁際に、壁を見ながらがら立っている緑色の鶴がいる。その鶴がどうやらつる吉らしいが、壁を向いたままぴくりとも動かない。

ここは、地面を掘った穴倉のようでもあり、木の香り感じる穴倉でもある。壁は土壁のような感じで、もこもこしている。つる吉はその波打つ壁をみていたようだ。とても広いとは言えない空間だが、日の光が入ってるかのように明るい時もなぜかある。今の空間色はオレンジ色の感じ。暖かい感じかな。「つぅるぅ吉!!」と大きな声が響く。鶴は動かない。ただ、しばらくしたら左の翼が動き始め、内側から大きく円を描くように高らかと上がった翼から、大きなジョッキが小さなテーブルに向かって振り下ろされた。その衝動で、ネズミのピッチは本に覆い被さるように読んでいたので、思い切り上に飛んだ。そして落ちてきた。でも、なにもなかったかのようにそのまま本を読んでいる。

「うーんふむふむ、うーんふむふむ」

本当に読んでいるだろうか?と思ってしまう。でも、とても難しい顔をして文字を指で追っている。

太った亀は、ばちばち木の板を指で叩きながら歩いていた。ところがお茶のカップというか、鶴の置いたジョッキを取ろうとして、持っていた板を落としてしまった。

「あーーせっかくの計算が!!」と頭を抱えながら板を拾おうとしたけれど、甲羅が邪魔してかがめないから拾えなかった。

僕は見た。つる吉がちらりと見てわらっていたことを。

そして、すーーーっとつる吉はしらぬ存ぜぬと言う顔で、静かに奥の扉へ消えていった。僕は全て見ていた。ふとった亀が吠えたのは言うまでもなく、その板を足を使ってなんとか手元まで持ってこようと、壁の方までこの木の板を寄せるために蹴った。

足は高くは上がらないけど、大きな平たい足の甲に上手く乗っかり、優しく蹴ったつもりが、思いの外おもいきり壁にあたってしまったので、綺麗に割れてしまった。

「キューーーーww」

扉の隙間から大きな声が響いた。

隙間からザマアミロと言わんばかりに、つる吉が笑っていた。

「新しいのを調達しなければ!」

と最後に鼻息荒く吹き出すと、太った亀はスタスタと扉の奥に消えていった。

なんか面白かった。


僕は今度は中指と親指で小さな円を作って、ピッチの読んでいる本をピッチの上から覗いてみた。

文字はなんの文字なのか見たことはないが、その文字をグググーーっとこの世界に入ったみたいにみていくと、その本の中に入った。

指を解くと、僕は湖のハタに出た。黄緑色の水がとても美しい。釣り人が1人いる。その釣り人はとても釣り人らしいとは言えない格好をしている。

その姿は俗に言う王子様と言われる格好で、クルクルした金髪の頭には小さい冠もついている。釣りの椅子はアウトドア用なのか、艶やかさがあるが簡易的な小さい王の椅子。

白いタイツと先が上向きに尖った靴がどうも釣り人らしく見えない。

僕は何を釣っているのかとても気になった。

僕は聞いてみることにした。

「あのぅ、何を釣られているんですか?」

竿を投げようとした時に僕は声をかけてしまったので、竿は中途半端で止まった。

その人はこちらを振り向いた。

「君は何を言っているんだい?」

ぼくはとまどった。

釣りではないのか?僕はすっかりそう思い込んでしまっていたので、少し恥ずかしくなった。

どう声をかけるべきか考えていたら

「君、少し離れていなさい。今からお月様が水浴びに来られる。私は湖の民にそれを知らせているのだからすこし静かにしてほしい。そして私の後ろに隠れていなさい。もうすぐ降りて来られる」

と、言うと持っていた竿を置いて、その竿を立派な箱にしまった。

僕は言われた通り、椅子の後ろに隠れた。

しばらくして辺りは青紫色に変わり、緑色の湖が光り始めた。

大きく黄色い光が、ゆっくりと降りてきた。

湖の緑を美しく彩りながら中へと入っていった。

椅子の側にたっていた彼は、いつも間にか月に向かって敬礼をしていた。

一度全て沈んだ月が半分湖の上に顔を出した。

そうして次の瞬間、月はものすごいひかりを発した。あたりが黄金に輝くほどの光だ。

なんだこれは?!と、思っていたら、あちらこちらから無数の星が飛んできた。そして、この湖の中へ飛び込んでは空にまた飛んでいった。それはとても幻想的で美しかった。

彼はずっと敬礼のままでたっている。

やがて、黄色だった月は黄緑色に変わってきた。黄緑色に変わった月は段々と湖から出始め、空にゆっくり登って帰って行った。

空に登ったお月様は、段々と小さく小さくなっていく。そしてバーーーんと突然大きくなり弾けたとたんに、緑色の光の粒を方々に飛ばした。

飛ばし終わったお月様は、とても美しい黄金に輝く元の姿にもどり、いつものようにそっとその姿を夜空に輝かせていた。

「あれはなんだったんだ?」

僕は一連の出来事に驚いていた。

すると、敬礼をしていた彼は、登ったお月様に深々と頭を下げた後、僕の元へきて説明をしてくれた。

「驚いたかい。今、君は人々の願いが叶う瞬間に立ち会ったんだよ。お月様が飛ばされたあの粒は、全て叶えられた願いだ。

たくさんの星たちは、託された願い事を持ってこの湖にその願いを沈めていく、叶えられる願いだけをお月様が吸い上げるのさ。尊い瞬間なんだ。」僕は願ったものが叶う瞬間に立ち会ってしまった。でもハッとおもった。

「では、叶わなかった願いはどこへいったの?」

彼が言うには、叶うことなく沈んでしまった願いには、願った本人の中になにか叶えられない理由があるという。

彼はこの湖の守り人であり、この国の王子様だという。この国には王様の仕事、王子の仕事という行事によっていろいろ分かれてあるらしい。

ピッチは願い事の叶う仕組みを勉強していたのだろうか?

僕は王子にお礼を言うと、この湖からすこし離れた場所に行って目を瞑り、この世界に入るために作った指の穴を頭の中で思い浮かべ、それをだんだんと小さい穴から大きくしていった。

目を開けるとピッチの後ろにいた。

「ねぇ、ピッチは何を読んでいるんだい?」

僕は見てきた事をピッチが話すだろうとおもっいて聞いてみた。

「僕はね、これを読んで勉強をしているんだ。願いとは叶えるべきなのか、叶わぬべきなのか。ということをね」

思ったのとちょっと違う答えが返ってきた。でも、なんかすごいことを勉強しているなって、その答えを聞いて思った。

僕は今日はこれで帰ることにした。

するとピッチがそれを察して言ってきた。

「ちょっちょっと待ちたまえ、しょうたろう。

言い忘れていたが、君は今度からはここには入って来れなくなる。この森はなくなるそうだ。

悲しいが、森があってのこの世界。私達は違う森に移らねばならない。君がいる世界は、本当に必要なものを見極められていない世界だ。悲しいが、人の欲の連鎖が断ち切れないうちは無理だろう。しょうたろう。もし私たちがいそうな森を見つけたら、また会いにきてくれ。

では、一旦さらばだ。また会おう」

ピッチはそう言うと、僕の身体をドンっと押した。小さいのに僕の身体と意識が飛ぶほど押したので、気づいたら森の前に立っていた。

素敵なものを観た後に、悲しいことが待っていた。 僕は大きくなっても諦めないで、ピッチをいつか探して、いろいろ教えてもらおうと心に決めた。そして僕には他にも、森の保存活動という今の世での夢が出来た。

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― 新着の感想 ―
またいつか会えると信じています(๑╹ω╹๑ )
2025/01/26 20:05 退会済み
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