第83話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】精霊たちの価値観
レーナの意味不明な行動で、周囲がなんとも言えない、残念な子を見る空気に包まれる。その隙に、ゾイヤが、しゅるりと長い身体をくねらせて、レーナとアルルクに近付いた。
唐突な行動を起こした水龍ゾイヤの思惑を図り兼ねて、2人が困惑のあまり動けずにいると、青い龍は一頻りスンスンと匂いを嗅いで、再び水の精霊王ヴォディムの傍へと引き返す。
『その赤髪の言う、小さき者を襲った不届きな魔族は、ファルークの番ではないのかノネ? 魔族の特徴と、この者たちに遺る気配は、そういう事なんだろうノネ』
「いーーやぁぁぁ!! 思わぬ伏兵登場なの!? もぉぉおっ、どれだけハードモードになるの?!」
得意気にほぼ正解とも言える見解を述べたゾイヤに、動揺のあまり心の声をそのまま口に出して、天を仰ぐレーナだ。
「何が、そーいうことなんだよ んなもん知らねーよ! レーナを襲った悪い奴 だから退治したんだぞ!! すっげー、危なかったんだぞ!! 知り合いならちゃんと見とけよ!」
何故かアルルクは、絶望するレーナとは対照的に、激怒してファルークに詰め寄っている。だが、怒りを向けられたファルークも黙ってはいない。
『見ていたんだぞ!? ワレの力を分けた、掛け替えない番なんだよぉぅ! 片時も、離れねぇ様に、幾つも幾重も仕掛けを施した、溶岩洞の奥底の特別な部屋に大事に囲ってたんだよぉ! 余計なモノも近付かねぇ様にしたし、常にワレの目のが届くところで何不自由なく愛でて奉って、大切に置いていたんだよぉぅ!! なのにっ……ライラっ……一瞬離れた隙にっ……なんで居なくなっちまうんだよぉぅ』
詰め寄るアルルクと同じく、必死の形相でライラへの並々ならぬ思いを叫ぶ。だが、言葉の所々から推測される、ファルークのライラへの所業にレーナは顔を引き攣らせた。
(そりゃ、病むわよ!! 熱血キャラかと思ってたけど、まさかの熱血ヤンデレ!?)
ライラだった魔族に殺されかけたことを忘れたわけではないが、思わず同情してしまう。ゲームでは熱血キャラとして扱われていた火龍ファルークは、熱湿兼ね備えた、べったりと纏わりつく暑さの高温多湿キャラだったらしい。
人間側はレーナと同じ心境なのだろう。明らかに顔をしかめたのはアルルクだけだが、概ね何処か引き攣った表情でファルークを見ている。表情に出さない教育をされたエドヴィンをはじめ、公爵家から付けられた面々が揃って、だ。
だが、エドヴィンの肩の上で転がり落ちそうになりつつも、彼の緑の艶やかな髪をがっちりと鷲掴むプチドラは違っていた。
『まぁ、自分の力を分けた番なら、当然そうするわよね。それでも出ていくなんて、困ったものね』
まさかのファルーク側だ。初代ドリアーデ辺境伯と遠距離恋愛を続けた彼女の、まさかの見解に、人間一同は驚きを隠せない。エドヴィンが、シュルベルツの同郷人である執事や護衛騎士らの葛藤を察して、果敢に声を上げる。
「ごっ……ご先祖様、まさかその様な方が、精霊姫の樹海におられたりするのですか?」
シュルベルツの一行が、彼女の返答を固唾をのんで見守る。まさか、あの樹海の奥深くに監禁された存在があるのではないか――と。辺りが、何とも言えないピンと張りつめた緊張感に包まれる。
『大切なあの人がいるのに、そんなもの作るわけないでしょぉーー?』




