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第82話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】この場を切り抜ける力を!


「いーかっ、覚えとけ! オレは魔族を倒して レーナを助けた、勇者アルルクだ!!」


『魔族だとぉ!?』


 どうだとばかりに胸を逸らして堂々と宣言したアルルクに、ファルークがギョロリとした黄色い瞳を、更に大きく見開く。


(言っちゃったぁぁぁぁあ!!!)


 内心で絶叫するレーナは、最悪の事態を想像してぎゅっと唇を噛み締める。駆けて逃げるにも相手との距離が近すぎる。


(くぅっ!! 戦うしかないの!? か弱い平凡(モブ)村娘の、この拳で!)


 両手の中の、はち切れんばかりに膨らんだプチドラの姿に緊張感が削がれてしまいそうだが、今はふざけて居る場合ではない。目の前では、アルルクが自分の武勇を誇り、腰に両手を当てた偉そうな姿勢で、遥かに大きなファルークと睨み合っている。一触即発の状況に、傍のレーナは覚悟を決める。


 火龍と平凡(モブ)村娘との闘いなど、結果は火を見るよりも明らかだろう。


 けれど、ヴォディムの言う「リュザスの()」の力がレーナにあるのだとしたら、神がかった一撃を放って、逃げるくらいの時間は作れるかもしれない。


『お前みたいな小さき者がぁ、魔族を倒しただとぉ?』


「あぁ! お前にちょっと似た格好の、黒いウロコの奴だったな。ツノもあったぞ! レーナを危ない目にあわせた 悪い奴だ!!」


『黒い鱗 角……? まさか、ワレの同族が魔族に堕ち……たぁ?』


 火龍ファルークの視線が一段と鋭くなり、睨み合うアルルクの眼を探る様に覗き込む。


(まずい!)


 これ以上アルルクが口を開けば、ファルークの(つがい)と、自分達が屠った魔族が同じ個体だと確信されてしまう。


『ワレの眷属が魔族に堕ちて、小さき者を襲った……なんて世迷言を聞かされてる気がするんだがなぁ?』


 そうなれば、プペ村で必死で救ったアルルクの命が再び危機に瀕する事態となる。番を殺され、怒り狂うであろうファルークの手に掛かって。


「そんなもん オレは知らねぇ! けど」


 アルルクが、続けて無邪気に口を開こうとする。


 もう、一刻の猶予も無い。


「アルルク! お願いだから黙っててーー!!」


 レーナは、ぷよぷよとしたプチドラを押し付けるようにエドヴィンに渡し、アルルクとファルークの間に割って入る。


(リュザス様、お願い!! わたしにこの場を切り抜ける力を貸してください! 出来れば平凡(モブ)村娘の立場が崩れない、さりげなーい感じでっ)


 頭に付いた蝶の髪飾りの存在感をひしと感じながら、強く念じる。


 物理的に彼らを引き離すべく、大きく開いた両腕と、渾身の力を込めた両手で、アルルクの胸元と、火龍ファルークの、ツンと尖った鼻先を突き()した。



 その場が静寂に包まれる。



 ひゅう……

 カサカサカサ……


 黒ずんだ溶岩石の大地に熱風が吹き抜け、乾燥した動物の骨が転がって行く。


「何やってんだ? レーナ?」


『……うむ』


 微動だにしていないアルルクとファルークが、困惑も露に言葉を発する。


 心底不思議そうな赤と黄色の視線は、何かが起きると確信して、固く目を瞑ったレーナに降り注いでいる。


(何も、起きてない!! ちょっとぉ!? リュザスさまぁぁぁ!?? 困難を回避する、起死回生のナニカは起こらないんですかぁぁぁーーー!?)


 世知辛いほど薄情なモブクオリティの現実に、どこかで「だろうな」と思いつつも落ち込み、恨み言を盛大に心の中で叫ぶ。


 ―― だって、何も起きない方が都合がいいんだよね。そしたら、ファルークはレーナに興味を持たないでしょ? ヴォディムもね ――


 ぽつりと、軽薄な言葉が頭の中に響いた。

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