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第75話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】我の清涼なる姿に、うち震えるがいいノネ!


 妖しく朱色の光を放つ溶岩流の滝。


 不気味な明るさを放つ滝壺の上には、流れ落ちる溶岩流の眼前を横切る様に、山なりに弧を描くアーチ型の岩が架かる。そのアーチの天辺から滝に向かって飛び込めば、この洞窟を出ることが出来るはずだった。


 だがその滝の奥から、ずい・と巨大な龍の鼻先が現れた。


 突き出てきた龍の顔に、レーナはこの世の終わり見て取り、エドヴィンは微かに首を傾げる。


 龍の顔の個性など、人に分かるはずもない。エドヴィンの受けた違和感の正体は色だ。


「よく見ろ、レーナ。ファルークの体色は赤だが、この龍は青い」


「えっ!?」


「それに、纏う魔力も違う」


 エドヴィンが口早に告げるが、動揺するレーナは、薄暗がりでそれを見分けることができていない。ついでに言うなら纏う魔力など、落ち着いていても分からない。魔力に秀でた、ドリアーデ辺境伯家の血を引くエドヴィンだからこその能力だ。


『はぁ? もしかするとファルークだと思ってるノネ。失礼なノネ!』


 すかさず、滝から突き出た鼻先にくしゃりと皺が寄って、思いがけない言葉が飛び出した。


 グルルルと唸る音と共に響く声は地を這い、とても友好的には感じられないが、紡がれる言葉はとても可愛らしい。


 ちぐはぐな存在感を示す龍に、警戒を向けていた一同は困惑した。目の前の存在がその気になれば、最早逃げ延びるのは不可能な距離感だから気を緩めることはできない。けれど厳めしい風貌と声に相反する、可愛らしい話し言葉の、なんとも気の抜ける相手に戸惑いは増すばかりだ。


『我の清涼なる姿に、うち震えるがいいノネ!』


 宣言するように声を張ると、ついに青龍(せいりゅう)は身を(ひるがえ)し、滝の向こうから躍り出た。


 溶岩流の滝と、松明の灯りで朱に染まる洞窟内。そこに現れた青龍は、ファルークと同じく玲於奈(れおな)の世界で東洋ドラゴンと呼ばれる細長い形をしている。爬虫類を思わせる長い鼻先に大きく裂けた口。そこから上下に鋭く突き出た牙。頭には、緩やかな曲線を描く角が天に向かってスラリと伸び、その付け根あたりから背中に向かってキラキラと輝く(たてがみ)が連なる。全身は細やかな鱗に覆われ、鋭い爪を持つ4本の脚が、しっかりと地表を捕える。


 全身の色は――やはり薄暗い中では分かりにくい。


『どうよノネ! 我が(あるじ)ヴォディム様絶賛の、流麗なる美貌だノネ』


「むふん」と顎を反らした青龍と対峙し、レーナは言葉に詰まる。綺麗なのだが、そこはかとなく残念感の漂う龍に困惑が増すばかりだ。エドヴィンや、執事ら大人も似たような感想を抱いたのか、誰一人として反応を返す者もおらず、微妙な()が生まれてしまう。


 その空気に龍が気付いてしまったのだろう。目を細めてそろりとレーナらの表情を、順に窺って行く。褒め称えないことを責められているような雰囲気を察し、レーナはバクバク鳴る心臓を宥めようと、洋服の胸のあたりをギュッと掴む。


(まずいわ。今になって褒めてもワザとらしいだけよね!? かといって何も言わないのも、気まずすぎるわ! それにこの龍の機嫌を損ねても、きっと命の危機よね!?)

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