第74話 【攻略対象 火龍の変化体】先回りされた!?
ついには全員が全速力で走り出したところで、背後から一際強い熱気が押し寄せて来た。
『なんで急いでるの? 火龍は番を探してるだけでしょ? 何でか赤髪とレーナから気配がするみたいだけど。その理由が知りたいだけじゃないの? 知ってるなら教えてあげれば良いだけでしょ』
(それを言えないから、逃げてるんでしょーーーーっ)
心の叫びを上げつつ、一層脚の回転を速めるレーナだ。
「オレだって そんなん 理由なんて分かんねーよ! あ、でも前にやっつけた奴が龍っぽ……」
「分かんないわよ!!! 理由なんてっ!! 速く速くっ! 面倒事には巻き込まれたくないからーーーーー!!」
気付いてしまったアルルクの言葉を遮って、レーナが大声を張り上げる。背後から伝わる熱気は、ますます温度を上げている。
(ヤバイヤバイヤバイ、逃げなきゃっ! 言い訳が通じれば良いけど……ううん、話すのは駄目ね。天然鋭いアルルクが、プペ村で龍に似た魔族をやっつけたとかって、番の気配がする理由の核心に迫ることを口走りそうだし)
敵は背後に迫るファルークだけではない。無自覚なアルルクが、思わぬ伏兵に成りかねない危機的状況だ。
「攻略対象のせいで、お手軽シナリオが、鬼難度の無理ゲーになるなんてーー!」
駆けながら腹立ち紛れに絶叫しつつ、視線はしっかりと溶岩洞の地上へ向かうルートを見定める。一見しただけでは判り辛い隠し通路の入り口を見付け、ダミーの通路を回避し、溶岩溜まり直通の落とし穴トラップを避ける。
「レーナ? もしかしなくても、楽しんでるよね?」
エドヴィンから、エメラルド色の胡乱な視線を向けられたレーナは、むぐっと息を飲んで押し黙った。
確かに、言われた瞬間、彼女の口元は柔らかく綻んでいたのだから。頭の中に刻み込まれた攻略方法を活かして、着実にシナリオを進めて行く――ゲーマーの血が騒ぎ、充実感を味わっていたのた。
「だって、地味な努力が成果となって現れるこの爽快感は理性じゃ抑えきれない感情なのよ! 2次元じゃない現実の達成感に、血が沸き立つのは仕方ないんじゃない!?」
ちゃんと最短ルートで脱出しようとしてるし、問題は無いはず……と、強気で主張する。
だがしかし、この世界の主軸で攻略対象のファルークに、モブにすぎないレーナが盾突くのは浅はかだったらしい。
地上に出る最後の関門となる、溶岩流の滝の幻影を潜ろうとした瞬間――
朱色に妖しく光る滝の奥から、ずい・と巨大な龍の鼻先が現れた。
「ぎゃぁぁぁあぁっっ!!」
咄嗟に、腹の底からの驚愕の叫びを上げたレーナだ。ダンジョンクリアを確信して、完全に気を抜いた矢先で衝撃も大きかった。
「なんだ!? 先回りされたのか!?」
困惑しながらも、エドヴィンがレーナを庇って前に出る。けれど、すぐに目の前の巨大な顔を見て、おや? と首を傾げることになった。




