第69話 【攻略対象 火龍の変化体】馬車、強襲!
『見っつけたぁぁ!』
抑え切れない弾む気持ちを、短い言葉に全て押し込んだ、力強さと歓喜に満ちた声だ。声の主の姿は無い。けれど、それが男の声であることは確かだった。
「なに!?」
ぎょっとして声を上げたレーナは周囲をキョロキョロと見まわし、エドヴィンはさっと護衛らに目配せしつつ傍らに置いていた剣を手に取る。
執事は外で手綱を取る馭者席の男に声を掛けているが、外には今の声は聞こえていなかったらしい。
『ああああ……、まさかのまさかよ。嫌な予感が的中しちゃったかも』
あわあわと怯え、エドヴィンの頭にしがみついたプチドラが、しきりに窓から上空へ視線を向ける。
『レーナ、あんた遊戯のヒロインじゃないって言ったわよね!?』
「わたしはただの平民村娘で間違いないわよ」
『ならどうしてアイツが来るのよ!』
「えっ!? 誰が来るって?」
聞いた瞬間、馬車内の気温が一気に上がり、外から馬の嘶きと、馭者の焦った大声が響く。次いで馬車が大きく揺れて停車すると、バキリと乾いた音がして屋根が吹き飛んだ。
『ワレが来たぞぉぉぉぉ!!!!!』
耳をつんざく銅鑼声が、屋根の無くなった頭上から降り注ぐ。馬車内の面々が見上げれば、そこにあったのは大人の背丈ほどある巨大な赤龍の顔だった。
『きたーーーーーーっ!!』
「ぎゃぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」
プチドラがエドヴィンの頭を、レーナはアルルクをむぎゅっと抱きしめて姿を現した大きな顔に向かって大声で叫ぶ。お陰で、エドヴィンとアルルクは動くことも出来ない。
素早く、執事や騎士らが子供たちを背に庇って立てば、途端に大きな顔に、一際鋭く光る黄色い瞳は、厳つい風貌とは裏腹に、狼狽えてきょろきょろと視線を泳がせる。
『待てって! ワレは諍いに来た訳じゃあねぇんだよ。ただこの場所から、ワレの番の気配を感じて迎えに来ただけなんだよぉぅ。小さき者らを虐げるつもりなんかねぇってばよぉ』
随分親しみの持てる話し言葉が、大きく裂けて鋭い牙の覗く真っ赤な口から発せられる。だが毟り取った屋根を持ったままの大きな手を、所在なさげに上げ下ろしするから、木っ端が降り注いで、対峙する馬車内の面々は全く安心できない。
ただ、レーナにはこの巨大な赤龍の声と話し方、そして彼の者の身に纏わる暑さから正体に思い当たるモノがあった。




