表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/239

第67話 【攻略対象 火龍の変化体】緊張感の無い面々


 欲望のまま好き勝手騒ぐ者たちの居る馬車内に、緊張感は無い。


 けれど今回の隣国訪問は、シュルベルツ領に降りかかった新たな災厄の芽を摘み取るための重要なものだった。かの領は、またしても別の危機を迎えている。樹海崩壊に繋がる降雨不足と猛暑だ。


 小さな精霊姫(プチ・ドライアド)ことプチドラが執拗に不快を訴えるのは、なにも我儘を言っているだけではない。高温と強すぎる日差しは彼女を弱らせる害悪となってしまう。植物を力とする彼女は、その性質も草木と等しいために、強すぎる陽の光を浴び続けたり、高温に晒され続けると、体内の水分を奪われて弱ってしまうのだ。


 更に、精霊姫(ドライアド)とプチドラは、樹海とのつながりが非常に強い。樹海と精霊姫らのどちらか一方でもダメージを受ければ、双方が弱ってしまう。彼女の精神ダメージが、樹海を滅ぼしかけた様に。


 よって今回の異常気象は、シュルベルツ領の存続を脅かす案件となっていた。猛暑による樹海荒廃――すなわちそれは2つの問題に繋がる。1つは樹海産業の衰退。いま1つは隣国の侵攻だ。


「砂っ! すーなっ! はーやくっ すーなっ!」


『あづいわぁぁぁ あーづーいーわぁぁっ ひからびちゃうぅぅ!』


 もう一度言おう。緊張感は無い。


 国と国とを結ぶ、よく整備された石畳の主要道を大型馬車はガラガラと音を立て走る。馬車の中は、暑さと騒がしさとでうんざりする空気に包まれている。


「もぉ、ふたりとも騒がない!! プチドラちゃんは、無駄に騒いで体力を消耗しないのっ。 ちゃんと水分取って! 半分は精霊姫(ドライアド)だけど、もう半分は植物から出来てるよね」


 たまりかねて声をあげたのはレーナだ。


『大丈夫に見えるー? ぜんっぜん大丈夫じゃないわよぉぉ 子孫~っ、あたしを癒しなさいよぉぉ』


 レーナの言葉に、エドヴィンの肩に乗ったまま、彼の耳を引っ張って大声で喚くプチドラ。騒いでいるのが、領地の開祖&樹海を守る精霊の分身体と言うことで、下手なことが言えないシュルベルツ勢は、「忍」の一文字を顔に浮かべてむぐぐと口を閉ざしている。アルルクは、彼女と共に騒いでいるから、何か言えるとしたらレーナしか居ない状況だ。まぁ、そうでなくともいい加減、赤&緑のコンピの騒がしさに辟易しはじめていたレーナだから、口は出しただろうけれど。


「ちっ……仕方がない。渋めの茶と、甘い菓子の準備を」


 苛々を隠しきれずに、舌打ちを挟んでエドヴィンが執事に指示を出す。長距離移動を想定して用意されている馬車内には、彼の要望した茶の用意は勿論ある。だが執事は動かず、騎士らと共に、揃って物言いたげにエドヴィンに視線を向ける。


「なんだ?」


 何故そんな()が出来るのかと首を傾げるエドヴィンに、向かい側に腰かけたアルルクが、焦りながら何かを伝えようとパタパタ手を動かす。手で自らの肩を叩いたり、口の前に指でバツ印を作ったりと忙しく動いている。

 それでも伝わらないエドヴィンが眉を顰めたところで、肩の上からフルフルと振動が伝わって来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ