第62話 【攻略対象 火龍の変化体】ひび割れた地面に立つ東屋
結果として、目の前に広がっていた光景はアルルクが訴えた通りのものだった。
完全に高床式の状態となって、ひび割れた地面に立つ東屋と、そこから離れて普段の三分の二ほどの大きさになってしまった湖――僅か数か月の間に変わり果てた姿に、怪異事件解決以降、勉強漬けの日々を送っていたレーナとエドヴィンは呆然と立ち尽くした。
「なんだ、これは?」
「ここに住んでるエドが知らないものを、わたしが知るわけないじゃない」
「なー? ちっちゃくなってるだろ?」
なぜか得意気にアルルクが胸をそらしてニカッと笑ってみせる。
『だーかーらぁ! あぁっついのよぉぉ!! 耐えらんないわぁぁぁ』
小さな精霊姫が『わかったでしょぉぉっ』と、喚きならエドヴィンの肩によじ登って、彼の耳をグイグイと引っ張る。
「小精霊姫は わがままだなぁ。そんなことじゃあ、お孫さんに愛想尽かされちゃって 寂しい老後を送ることになるんだぞ」
『赤髪はうるさいのよ! 年長者は尊ぶべきでしょ!』
衝撃的な光景ではあるが、緑と赤のクリスマスコンビの騒がしさに、レーナとエドヴィンは放心することも出来ない。
だから、すぐに立ち直ったエドヴィンは、綺麗な笑顔を張り付けて、クルリとレーナに顔を向けた。面倒くさいからもう考えたくない――そんな心の声が聞こえてきそうな様子に、レーナが反射的に身構える。
「そんなわけでレーナ、うちのご先祖がうるさくてかなわんのだが。何か心当たりはあるか?」
「は!?」
まさかの丸投げ発言の衝撃が、構えを突き抜けてレーナに目を剥かせる。
「ナニ言ってるの!? わたし気象予報士でもなければ、雨乞いをする祈祷師でもないんだからっ」
「キショウ……なんだ? それは? ……まぁいい。私が聞いているのは、例の遊戯に、そんな試練は無かったかという事なんだが」
「あぁ、そっちの話? すっかり忘れてたわ」
早く旅立ちたい一心で、ドリアーデ辺境伯の後見資格を得るために、絶叫精霊姫の怪現象解決のせいで無駄になった時間を取り戻すべく、ひたすら勉強に、鍛練に打ち込み続けたレーナだ。乙女ゲームのストーリーなど、リュザスに会わんがための集中力の前にすっかり頭から抜け落ちていた。
レーナは、もともと筋が良かったのか、剣技、護身術にかかる鍛練に関しては既に及第点を与えられている。王都に戻らず、シュルベルツ領に居座ってしまったアルルクも共に鍛練した影響もあるのだろう。組手や打ち合いの相手が勇者なんて、贅沢すぎる環境だ。ただ、マナーだけは前世知識が悪い方に影響し、どこかこっぱずかしい気がして上手くできない。コルセットだって馴染めずに、未だ平民の時とは変わらぬワンピース姿だ。
(勉強ノルマをクリアすればリュザス様を探しに役立つこと間違いなしの、貴重な「辺境伯の後見」が手に入ると思って、他のことなんて全く考えてなかったわ。夢中になって他が見えなくなるのは、玲於奈の時からの悪い癖ね)
根っからのコツコツゲーマー気質が、良くも悪くも現れてしまう。
「旱魃とか、猛暑の試練なんて無かったはずよ?」
うむむ・と記憶を手繰り寄せてみるが、残念ながら思い当たるイベントは無い。




