第60話 【攻略対象 火龍の変化体】赤犬アルルクの飼い主認定
「第2章 火龍・水龍 編」始めます!
怪現象解決から1か月。
レーナの危機を本能的に嗅ぎ付け、王都から龍化で文字通り飛び出してきたアルルクも勇者の修行へ――なぜか戻ってはいない。どんな経緯があって単身で、レーナの元へ舞い戻ることになったのかは、彼自身からぼんやりとした話しか得ることが出来ない。だが、ドリアーデ辺境伯と王宮側での遣り取りの結果、辺境伯の監督下での預かりならばと承認されたらしい。
王都を出奔した勇者が居座るイレギュラー対応に追われて、さすがの綺麗な笑顔も、どこかくすんで見えるドリアーデ辺境伯。その彼と並んだエドヴィンが、皺の寄る眉間を揉みほぐしながら諸々の事情を語ったのは、アルルクと入れ替わる形で王都へ赴いていた辺境伯が、帰還してすぐのことだった。
そして慌ただしく行われた、領主館の応接間での説明の席には、当事者であるアルルクだけでなく、レーナまでもが呼ばれている。理由はハッキリとは伝えられなかったのだが、もしかするとレーナに纏わり続けるアルルクの保護者扱いをされているのかもしれない。困ったものだと思うレーナではあるが、それはプペ村に居た頃から変わらないので、仕方がないと諦めてもいる。
「レーナが大変だから、ヒーローは行かなきゃならないと言い張って、止めようとした騎士数十人と、師範らをあっさり倒して飛び出したらしい。それだけの実力が付いたなら、訓練施設に留め置く意味もないとのことだ」
但し、有事には王国への協力を要請したいとの国側の事情により、ドリアーデ辺境伯が彼の綱取り役を命じられたのだ。エドヴィンの苦々しい視線から顔を逸らしたアルルクは、隣で話を聞いていたレーナからの胡乱な視線を受けてあたふたと焦った様子を見せる。どうやら、今まで通り彼女から喧嘩を咎められると勘が働いたようだ。
「だがの、察しておるとは思うが、我らとしても龍の力まで操る勇者を諫め、監督することは叶わん。護りの魔法に長けた我が一族だが、木を司る精霊姫様からの賜りものの魔力だからのぅ? その勇者の『火龍』の力とはつくづく相性が悪いのだよ」
ドリアーデ辺境伯の視線が、ひたとレーナに合わせられる。面倒ごとの種を避けたい一心でエドヴィンに視線を逸らすレーナだったが、苦々し気に見返されただけだった。
「私も不本意ではあるが、この赤犬……ごほん。勇者アルルクを導けるのはレーナしかいないと云う結論に達した。プペ村へ戻すまで面倒を見るように」
それは一体どのくらいの期間……と文句が口を衝きそうになったが、確かに、今隣でレーナの反応に一喜一憂し、言動を見逃すまいとしている忠犬の様なアルルクの居住まいを見るに、それは正しい判断な気がする。
「ちゃんと、言いつけを守らなかったら、すぐにお家に帰すんだからね……」
「おう!!」
力なく言い聞かせたレーナに、尻尾を全力で振る大型犬の映像が浮かぶ勢いで、アルルクが元気に応えたのだった。




