第53話 【攻略対象 辺境伯令息】髪に群がる蝶は気持ち悪い
「それよ!」
いきなり大声を出したレーナに、精霊姫がビクリと両肩を揺らして、まん丸く見開いた眼で彼女を凝視する。傍のエドヴィンやアルルクを始めとした周囲の者たちも同様に彼女らに視線を集中させる。
「この森の木の一部、枝の一本でも街に持ち帰ったら、あなたは街を見ることが出来たりする?」
『そんなことが出来るなら、とっくに見てるわよぉ! あたしと繋がってないと見ることなんて出来ないんだからぁ!』
「繋がるってどう云うこと? 地面? 根っこ? 魔法の類いだったりする?」
鼻息も荒く詰め寄るレーナに、精霊姫がたじろぐ。レーナこと玲於奈は、リュザス目当てに細かく条件を変えて何順もゲームを攻略するほど、粘り強い性質だ。それが全面に出て、条件を洗い出そうと精霊姫にグイグイと迫る。
『だからっ、あたしの身体の一部って言えるくらい、あたしの魔力が満ちていればっ』
「なら、これはどぉ?」
言葉を捉えるなり、レーナは地面に転がる根の断片を手に取る。丁度レーナの肘から手先までの、持つのに程よい長さの木の根だ。それから波打つ精霊姫の髪を纏めて掴み取り、根の木片にくるくると巻き付けてみせる。
「このまま切り離したら、あなたの力が強く残るんじゃない? 切りたて生木の根っこは、まだまだ生き生きしてるし、貴女の髪なら力もいっぱい入ってるんじゃない?」
『えぇっ? やだ、なんで切らなきゃなんないのよ。確かに魔力は入ってるけどーー』
―― へぇ? さすが僕の見込んだレーナだ、面白いこと考えるねー ――
不意にリュザスの声が響いて、レーナの手にした木片に、何もない空間から何匹もの虹色の蝶が現れて群がって行く。
『きゃあぁぁぁ!! ナニよこれっ』
「えぇぇぇっ!? どうなってるのぉ」
虹色蝶に埋め尽くされた木の根の悍ましいビジュアルに、嫌悪と困惑を抱きながら、離れられない2人が声をあげる。
『もぉぉぉっ! 取って、取ってっ! 髪から離してってば』
「どうやってよっ!? ハサミもないしっ」
『あんたさっき、あたしの根っこを切り取ってたでしょ! あれ、出来ないのっ!?』
「切るのとはちょっと違うけど……。もぉぉっ! 仕方ないわ!」
レーナは、ぐっと目を閉じ、アルルクと魔物の手を組み合わせたときの感覚を思い出す。あの時は、全くの異物同士だったが、今回は精霊姫の力で育った木と、彼女の髪だ。そう大した問題は起こらないだろう――と、心のどこかで納得する自分がいる。
だからレーナは、思う存分、強く念じる。
「修繕で、木と髪を組み合わせて本体から切り離すっ」
口に出すと同時に、レーナの全身から力が抜ける感覚がして、彼女の手元からカッと白い光が溢れ出す。同時に蝶の群れも虹色の光となって弾け飛ぶ。
辺り一面が、視覚を眩ます真っ白い閃光で埋め尽くされた。
その場にいる誰一人として目を開けていられない、光線の暴力だった。わずかの間を於いて、ようやく光の奔流が収まり、各々が恐る恐る目を開いて行くと――
精霊姫とレーナの間に、ちいさな緑の少女が現れていた。




