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第51話 【攻略対象 辺境伯令息】女子(?)と女子(??)で号泣


「え!? まさかここに在った湖って、精霊姫の涙だったのぉ!?」


 目の前の光景から、まさかの事実に辿り着いたレーナが声をあげる。側の2人も、その言葉につられて微かに銀の光を帯びる水溜まりに気付き、驚愕に目を見開く。


 超常の存在感を見せ付けた精霊姫が、滂沱の涙を流しながら、ゆらりと立ち上がった。


『愛しさ余って憎さ100倍……あたしの心を弄んだ報いを受けてもらうわ』


 低く地を這う怨嗟の声が、その場に居る全ての者たちの脳内に響く。エドヴィンは顔を強張らせ、執事や領兵らも顔面を蒼白にしながら臨戦態勢を取ろうと動く。


 そんな中――レーナはエドヴィンの手を振りほどき、精霊姫の正面に勢い良く屈み込んだ。その勢いに押され、ピクリと肩を揺らした精霊姫の反応を無視して、素早く顔を覆った彼女の両手首を掴むと、一気に引き寄せる。


 涙と鼻水でグシャグシャにした顔を顕わにさせられた精霊姫は、僅かに体勢を崩して前傾姿勢となりながら、強引な行動に出たレーナに怒気を込めて睨み付ける。が、すぐに大きく目を見開くことになった。


 レーナは、労りと、怒りと、悲しさがない混ぜになった表情で、まっすぐに彼女を見詰めている。


「そんなの寂しすぎるでしょ!」


 至近距離でレーナの黒い双眸が、涙で揺れるエメラルドの瞳を強い光で射抜く。


「寂しいからって、ネリネの約束を護り続けたドリアーデ辺境伯一族を責めるのは違うでしょ! この人たちは今でもあなたを滅茶苦茶大切にしてるんだよ!? 家中、街中に有る、あなたとネリネの花を一度でも見たことある!?」


 大好きな二次元(ゲーム)の綺麗な画面に描かれる以上に、精霊姫とネリネの意匠は町中に溢れていた。気付いたときは、初代辺境伯の執着にゾッと……いや、想いの強さに心を打たれたレーナだ。小さなスマホ画面だけでなく、この世界に存在して見聞きしたからこそ気付いた事実だった。


「わたし、びっくりしたし、感動したんだよ!? 一度でもちゃんと今の現実を見てみなさいよ! 水溜まり作るほど泣いてるなんて、時間が勿体ないわ。こんなところに一人で引き籠もってるから鬱々しちゃうのよ。あなた以上に鬱陶しいくらいの、あなたとネリネが街に溢れてるんだからぁーーーーー!」


 目の前で、真っ赤に泣きはらした目を丸くしている精霊姫に、叩きつける勢いで言葉を吐くレーナの両目からもボロボロと涙が零れる。それを見開いた眼で見詰めていた精霊姫の両目も再び潤みだす。


『なによなによ、あんたたちなんか! どれだけ想ったって一緒に居られない、一人で居なきゃいけない、あたしの気持ちなんてわからないクセにっ! うわぁぁぁーーーーーん』


 いつの間にか、女子二人はその場に膝をついたまま、両手を取り合って大号泣の合唱をしていた。


「大おばあさま!!」


「ばあちゃん! レーナっ、ばあちゃんをいじめちゃダメだっ! それに無理させちゃだめだよっ」


 エドヴィンとアルルクが、見当違いな心配をしながら声を掛け、泣き続ける2人をどうすることも出来ずにオロオロと立ったり、しゃがんだりを繰り返す。


 3年後の攻略対象らは、感情を顕わにした精霊姫と平民(モブ)村娘を前に、為す術無しの、形無しの状態なのだった。

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