第48話 【攻略対象 辺境伯令息】おばあさま
エドヴィンの魂を込めた叫びを耳にしたレーナは、思わず耳を疑って目を瞬かせた。
『――――!!!?』
頭の中の声が、ヒュウッと息を飲む。その言葉を向けられたワケではないレーナも、精霊姫と同じく「おばあさま」の言葉が突き刺さって、ぎょっとする。
『な、なななな……! あなた今、あたしのことを何てっ』
「おばあさま、いえ失礼しました。親しげすぎる物言いでしたね。大御祖母様、いえ、御隠居様……大祖母君様とお呼びしたら宜しいでしょうか」
(エドったら、わざと!? ねぇ、わざとなの!? 精霊姫のメンタルをゴリゴリ削りにいってる様にしか聞こえないんだけど!?)
心の中で、盛大な突っ込みを入れずにはいられないレーナだ。
「なんだよ、お前 そんな呼び方だと すーーーーーっげぇ、ばぁちゃんのことみたいだぜ?」
(あぁぁぁ! ここにもとどめを刺しに行く子が……! アルルクも、わざとなの!? ううん、あなたは天然なのよね! いや、余計にタチ悪いし!)
ようやく祠の戸口に精霊姫が姿を見せるけれど、やはり精神的ダメージを受けているのだろう。若干前屈みの上、よろけつつ残った扉を掴んでいる。髪も乱れているせいで、その姿はエドヴィンの言葉も相まって、まさしく大きく年を召したご婦人のようだ。
『おっ……おお、おば……?』
ショックを隠しきれない精霊姫のエメラルド色の瞳が、同じ色を持つエドヴィンにピタリと合わせられる。信じられない想いと、救いを求める色が見える瞳に、思わず同情しそうになるレーナだが、ここは下手に庇い立てせず現実を見せるべきだと心を鬼にする。
「当たり前ですよね? エドヴィンは、あなたが大好きだった初代の血も引いているけど、同時にあなたの生んだ子の、その何代もずぅっと後に生まれた子なんだから。母親の母親のそのずーーーー……と遡ったあなたは大御祖母様どころの話じゃないですよね」
紳士教育を受けた男性ではハッキリ言えないだろうと、レーナがきっぱりと言い放つ。やはり、その言葉を聞いていたエドヴィンを始めとした執事や領兵らは気まずげな表情を見せる。ただ一人、アルルクだけは「だよなー」とあっけらかんと同意の声を上げているが。
『い、い、い、いやぁぁぁぁーーーーっ!』
精霊姫が、嫌々と首を横に振りながら、悲痛な声を上げた。




