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第40話 【攻略対象 辺境伯令息】虹色の蝶、再び


 唐突に表れるリュザスの声と同じく、突然に動き出した虹色の蝶の髪飾り。


 七色の輝きを放ちながら舞い飛ぶ神々しい姿に、一行は魂を吸い寄せられたかのように目が放せない。蝶が、優雅に飛び去ってゆく姿を、ただただ見詰め続ける。


「はやくっ! 蝶がエドのところへ案内してくれるからっ」


 そんな空気を打ち破って、レーナが1人声をあげた。


「なんとっ!?」


「まさか!」


 彼女の声で我に返った面々が、逸早く駆け出したレーナの後ろ姿を認め、不安げに視線を交わす。けれど、例え彼女が言っていることが誤りだったとしても、元の場所へ戻されるだけだ。万が一、違う場所へ出たならエドヴィンを探しに進むことが出来る――それだけのこと。


 だから一行はすぐに彼女の後を追って、進みだした。


 蝶は、一行から付かず離れずの距離を保ってひらりひらりと飛び続ける。蝶を追い始めてからリュザスの声は聞こえなくなった。だからレーナはひたすら進むことに集中して、虹色に輝く道しるべを追う。


 体感にして数百メートル進んだかどうか、手にした灯りで間近の樹影のみがようやく判別出来るだけの暗闇の中。特に代わり映えの無い空間を、突き進んだその時――


 ぱき……ん


 全員が、全身で薄い氷を突き破った様な、奇妙な衝撃を覚えた。



 と同時に、目の前に幽玄な白銀の輝きに包まれた景色が現れる。周囲は相変わらず光を通さない深い森が続いているが、ある方向からの明かりが漏れ広がって、朧気に周囲を照らし出しているのだ。


 虹色の蝶は、虫の本能に従うかのように、まっすぐ光の一番強い方に向かって進んで行く。


(この場所って、この光って、もしかしたら……)


 1年前の出来事を思い出して、レーナは緊張感が高まって行くのを感じる。


 進むにつれて、密やかだった光は徐々に強さを増す。輝きが辺りに溢れ、一行は束の間、希望を覚えて目を輝かせるが、それは直ぐに失せた。


 照らし出された樹海の異様な様相が、(あらわ)になったからだ。


 木々の(こずえ)は、焦げたように黒く変じ、葉を落として奇妙に捻れている。幹も生命力を無くして大きくひび割れ、乾燥して暗灰色に変色した表皮は所々崩れ落ちて木乃伊(ミイラ)を思わせる不気味な風貌だ。足元に視線を落とせば、そこも黒々とした奇妙な色の地表が広がり、苔ひとつ付いていない。


 その異様さを強調するように黒い景色の真ん中には、あの時見たよりも更に広さを増した、銀色に輝く透明な湖水が揺れていた。


 虹色の蝶は、そこが目的地と告げるように、透き通った湖面を軽やかに羽根で叩く。


 ふわりと揺れて幾重にも広がる波紋が現れ、静かな波が外へと輪を増やして行く。


 蝶は、虹色に輝く鱗粉を落としながら尚も飛ぶ。そして美しい水の輪の中央で、くるりと小さな円を描いて舞うと、役目は果たしたとばかりにゆっくりとレーナの頭に舞い戻って来た。


「この湖が目的地と云うことでしょうか。エドヴィン様は……一体何処に」


 執事が困惑も顕わな表情で周囲を見回す。その傍では領兵の隊長が、執事の手に握られた(ほこら)の地図と方位磁石(コンパス)を見比べて「祠の方向へ進んで来たようだが」と険しい表情だ。


「ここは当初の目的地、精霊姫(ドライアド)(ほこら)の場所で間違いありません」


 きっぱりと言い放つレーナには、確信があった。目の前に広がっている景色が、玲於奈の時に見た、精霊姫を助け出す場面で見ることになるゲームの背景映像と同じだったからだ。ただ、その景色が現実化するのは、本来ならゲーム開始後である3年ほど先のタイミングだったはずだから、時期が早まってはいるのだけれど。

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