第4話 【ゲームのはじまり】揺るがぬ愛こそ彼方へ通じる道
頭上にひろがる天空が、錆色の鈍い光を帯び始めてはや数十年。
青く澄んだ高い空――その尊さに気付いたのは腰の曲がった老人たちが最初だった。
けれど老人たちには、万物を調べ異常の原因探求に費やす時間も、世界の果ての隅々まで調査する力も無かった。だから彼らは、かつての透き通る清浄な青を懐かしみ、古びた神殿の神像の前に膝を付いてひたすら祈った。
「生命を司るリュザス神よ。どうか暖かい光に満ちた世界をお戻しください」
――と。
信仰心が生命繁栄を導く力となる神リュザス。
この世界の唯一神として崇められ、世界各地の神殿に祀られる虹色の髪の美しき神。彼は、原始の時代からたびたび人前に姿を現し、水を与え、火を与え、世界の繁栄に貢献してきたと伝えられる。世界には彼を祀る神殿は数多くあり、そのいずれにも神像や絵画として共通した姿で伝えられている。
滝の様に真っ直ぐに足元まで流れ落ちる虹色の髪。憂いを帯びて伏せられた金色の双眸。ツンととがった涼やかな鼻梁。中性的で均整の取れた立ち姿。人類の理想を顕現した姿の神像に人々はひれ伏し、世界の繁栄を祈った。
けれどそれは過去の話。
今では空の本当の青さを知る老人だけが、おざなりに管理される神殿に足を運ぶだけ。時代を担う力に満ちた者たちは、より力を持つ「人」の元に跪いて身の安寧に心を砕く。その「人」は国王とも、陛下とも呼ばれ、嘗て神のみが持っていた人々の信仰を奪い去ってしまった。
栄えた人類たちは、神への賛美の祈りを止めた。宿した復活の力を以て神殿に祈りを捧げ、誰よりも強い信仰心でリュザス神を支える「聖女」すらも、私欲に満ちた人間の営みに飲まれてしまった。
今や聖女の尊き名を冠しているのは、国王の元に生まれただけの、ただの娘。神に何の思い入れもなく、権威を纏うためだけにその「聖女」を名乗るのみ。
神に力を与えるべき祝詞は捧げられず、年老いた一部の信仰深い者の祈りが、世界の片隅で儚く響くだけ。
神が力を失った世界は、再生と繁栄の力を失う。
大地や海、空は生命を育む力が衰えた。
動物も植物も、命あるものはその数を減らす。
人間も、少なくなる実りや獲物に食うに困り、過酷な世界は生まれる子の数も減らして行く。
緩やかな滅亡を辿り始めた世界――それが異世界ダンテフォール。
あなたこそが、世界を救う鍵を握る聖女。
来たれ、ダンテフォールに。力失くしつつある神リュザスの世界を救うために。揺るぎない愛こそが、彼方へ通じる道となる。さぁ、旅立とう!
『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』
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