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第34話 【攻略対象 辺境伯令息】嘆きのブーケトスが閃きのきっかけ!


「ふっ……あはははは! 毛虫が群れになってるのを見たみたいになってるぞ。やっぱり、それでこそレーナだな!」


 レーナが盛大な心の叫びを上げたところで、エドヴィンが、朗らかな笑い声を響かせた。


「ごっ……」


 助かった、と思う反面、申し訳ない気持ちも少しだけ湧き上がったレーナは、咄嗟に謝罪の言葉を口にしようとする。


「なんだ? 謝ろうとしているのか? 傲慢だな。ここはお前も笑って流すところだろう」


 その言葉を遮って、エドヴィンがニッと口角を吊り上げて、強気な表情を作る。レーナにはその顔が寂しそうにも見えたのだが、気付かないふりを決め込んだ。


「そうだねっ。お花は見る人が深読みしちゃうから、気を付けてね。わたしも友達として飲み物とか、食べ物なら気軽に受け取れたのに」


 申し訳ない気持ちを押し込めて、軽い遣り取りに便乗してみせる。するとエドヴィンは「ならばこれは不要だな」と呟いて、花束を持って振りかぶった。


 瞬間―――レーナの脳裏で、ゲームのストーリー動画の記憶と、エドヴィンの姿が重なる。



『聖女と攻略対象が辿り着いた時、(ほこら)は既に湖の底に沈んでいて、助けが間に合わなかったことを詫びながら花束を投げ込むの』



 2ヶ月前にエドヴィンに語って聞かせたばかりの、彼ルートの試練攻略映像と瓜二つ――いや、ほとんど変わらぬ姿に、閃くものがあった。


「――――――――!!! 待った、待った、まーーーーったぁぁぁ!!!」


 エドヴィンが、周囲に集まってしまった観衆に、ブーケトスよろしく投げ渡そうとしていたネリネ。それを持つ手に、レーナは大慌てでしがみつく。


「な、なんだ!?」


 花束ごと振り上げた腕を抱え込まれて困惑するエドヴィンが、何のつもりだとレーナを見れば、キラキラと輝かんばかりの満面の笑みを浮かべている。


「わたしっ! 見付けたかもしれない!!」


「なっ、何をだ!?」


 不意打ちのレーナの笑顔の直撃に頬を染めるエドヴィンだが、彼女の突然の反応が意味不明すぎて、照れるよりも困惑が勝ってあたふたと腕を下ろす。


「その花束を持って、一緒に来て!!」


「どこに行くつもりだ!?」


精霊姫の(ドライアド・)樹海(ラヴィリア)……ううん、彼女の(ほこら)よ!」


 迷いのない輝きを瞳に浮かべたレーナが、揚々と告げる。


 ついに精霊姫が引き起こす怪奇現象の解決策が分かったのだ。先の見えなかった道に、真っ直ぐ伸びる光明を見出したレーナはすっかり気持ちが浮き立っていた。だから、一刻も早くその方法を実行しようと、街から樹海へ向かうことを提案したのだ。


 だが、エドヴィンは冷静だった。いや、至近距離で被弾したレーナの満面の笑みに激しく動揺はしていたが、それとこれとは別と判断する分別を持っていた。


「レーナ、君はまた母親を悲しませたいのか? 今日は、休養日だ。さっきは、普通なら取り返しのつかない怪我を負ったかもしれないんだぞ」


「うぅ、そうだったわね。けど、少しでも早く――」


「レーナ? 私だって、花さえ贈ろうとした君が、危険に晒されるのは望まない」


 君を思う相手のことをもう少し考えて欲しい――そう訴えられては、レーナも無理は言えなくなる。階段での出来事で、悲しませてしまった母の泣き顔が、ありありと思い出される。


 だから、レーナは今回ばかりは大人しく諦めざるを得なかった。


 それだけでは無い。街へ出掛ける準備を整えているだけの護衛では、樹海へ入るには装備と人員が心許無い。更には、レーナが提案した目的地――精霊姫(ドライアド)(ほこら)の場所を確認する必要もあったから、その足で向かうことは叶わなかったのだ。


 中途半端なエドヴィンの告白を受けてしまい、そのまま2人での散策を続けるのもいたたまれなかったレーナは、適当な言い訳をして屋敷へ戻ることを提案した。エドヴィンも特に何も言わず、この日の外出はお開きとなった。

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