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第31話 【攻略対象 辺境伯令息】無理がたたって階段落ち


 精霊姫の言葉を洗い直してみれば、彼のご先祖様が発端で間違いはなさそうだった。


 だから、レーナは以前にも口にして、そのまま忘れ去っていた疑問をもう一度エドヴィンに提示してみる。


「エド、やっぱり『子孫の役目』が重要なんじゃないかな。ドリアーデ辺境伯家に代々続いてたお祭りとか、風習とか、習慣みたいなささやかなものとか……。そんなものを調べなおすべきだと思うわ」


 それと、14歳を迎えて、背丈もぐんと伸び、男らしくなるどころか中性的な危うい魅力を纏い始めた彼に、中身お姉さんからアドバイスのつもりで一言付け加えておく。


「男の子の方は何とも思ってない小さな事でも、恋する女の子にとっては大事な事ってあると思うのよね。笑顔一つ、渡されるその辺のお花一つでも、相手によっては大きな意味とか、勘違いを与えたりするものよ。特にエドみたいな美形なら」


「逆もあるってことを、レーナは学ぶべきだと思うぞ」


 即座に憮然と返されて、レーナはキョトンと目を瞬かせのだった。




 次に始めた調査はシュルベルツ領に伝わる言い伝えや風習や祭り、ドリアーデ辺境伯家に伝わる習慣や口伝の収集とした。


 街や領内に伝わる精霊姫関係の「もの」「こと」を、とにかく数多く集めるために領兵の力を借りて大々的に行った。更には、ドリアーデ辺境伯家の親戚をも巻き込んで、家系にまつわる調査も行った。


 けれど、領地内の調査をどれだけ行っても目ぼしい情報や遺構も無く、ドリアーデ辺境伯家の家系を辿っても、古参の使用人から話を聞いても、これは・といった情報は得られないまま、2ヶ月が過ぎた―――。


 この日も、朝早くからレーナとエドヴィンは、ドリアーデ辺境伯の屋敷の書庫に収められた蔵書を見直し、それでも得られない手がかりを求めて街へ向かおうとしていた。屋敷の書庫と、街の図書館の往復がここ最近のルーティンワークになっている。


 辺境伯家の2階から、玄関ホールに降りる大階段に足を下ろした瞬間、数週間に及ぶ文献調査の疲れが出たレーナは、突然の眩暈に襲われた。


(あ、これまずいやつ)


 と思った瞬間―――ガタゴトと激しい音を立てながら、彼女の身体は一階と二階の間に作られた踊り場まで一気に転げ落ちる。


「レーナ!! おいっ! しっかりしろ!!」


 血相を変えて階段を駆け下りて来るエドヴィンに、レーナが大丈夫だと告げるが、微かな声しか出ていない。


「レーナっ!!」


 エドヴィンが必死の呼びかけと共に、レーナの上体を抱きかかえて起こそうとした瞬間――


「ぶっぶー。駄目だよ。頭を打ってる人を、無理に動かしちゃ」


 間の抜けた擬音を口走って、レーナがニヤリと笑った。


「あー痛かった」などと言いながら、頭や首をさするレーナは、自分を治す修繕(リペア)能力を持っている。その力は、衰えることは無いが、未だ微妙な効果を発するだけだ。今だって、完全に治せないから「もちょっと治んないかな、治れー治れ」などと、彼女曰くの微妙な(まじな)いを何度も唱える。


「心配させるな! 無理をするな! もっと自分を大切にしろ!」


 必死に訴えるエドヴィンが、未だ確保したままのレーナの両肩を掴んで声を荒げる。が、きょとんとしたレーナは「けどわたしは救急箱要らずなんだよね」などと、のんびりしたことを口走る。


「それにね、わたしはただの一般庶民(モブ)だから、気を遣わなくて良いんだって」


 更には、へらりと笑って自棄ともとれる内容を呟いたレーナに、エドヴィンが「良いわけないだろ!!」と大声で叫んでいた。


(いや、心配してくれるのは有難いけど、怒ることなくない!? しかも時間が惜しい状況だよ!? 樹海の荒廃は待ったなしで進んでいるんだから)


 シュルベルツ領滅亡の展開を知るレーナは、どうしても焦ってしまうのだ。


「だめだ! 今日の調査は終わりだ!! 今日はもう調べない!! 仕舞いだ!」


 なのに、怒りの抜けないエドヴィンは、一方的に今日の調査終了を決めてしまった。

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