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第30話 【攻略対象 辺境伯令息】罪作りなご先祖様


 本人に聞くことが出来ない。ゲームの記憶もあてにならない。

 そうなると、レーナとエドヴィンに出来ることは限られてしまった。


 翌日、朝もまだ早い時間から、レーナとエドヴィンは怪現象の情報が集められた領兵詰所内の資料室を借り切って、作業に取り掛かった。怪現象の起こる現場以外での情報収集と調査を行うことにしたのだ。室内には2人の他、怪現象調査担当の領兵5人が同席している。


 とはいえ、去年忽然(・・)と始まった精霊姫の(ドライアド・)樹海(ラヴィリア)での怪現象については、大方の資料はここに揃っていた。調査報告書をまとめ、被害者を集めて聴取を行うなどは、既にエドヴィンの父であるドリアーデ辺境伯が、領兵を動かし対策を講じていたのだ。けれど、怪現象は収まるどころかひどくなる一方で、さらに解決の手掛かりも得られていない。


 そんな中、辺境伯が、まだ子供のレーナとエドヴィンに事態の解決を命じたのは、重大案件を引き起こした彼らに反省を促すためともう一つ。レーナの語った遊戯の記憶と、攻略対象(エドヴィン)の立場に期待したからだ。そんな曖昧なモノに賭けてみようと思えるくらいには、事態は膠着し、切迫していた。


「「うーーーーん」」


 資料室の中央に置かれた、資料の山が幾つも積み上げられた机に、隣り合って座ったレーナとエドヴィンが揃って困惑の声を上げる。


 2人の視線は開けられた机の空いたスペースに注がれていた。


 そこには、精霊姫の叫んだ言葉がまとめられた資料が置かれている。報告書の正式な書式であるソレは、白い紙面の随分上寄りに文字が記されただけで、あとは勿体ないほどの空白となっている。


 まさかの不備などと言うことは無いだろうとは思いつつも、一縷の望みをかけてエドヴィンは怪現象調査担当の領兵に尋ねてみることにした。


「これ以外に、被害者たちが聞き取った絶叫姫――いや、精霊姫(ドライアド)の言葉は無いのか?」


「全く。この1年繰り返されたのは、変わらずこの三言だけです」


 にべもなく返された言葉だけでなく、その場に居合わせた調査を担当した領兵ら全員が肯定の意を伝えて来る。




 精霊姫の言葉から得られた情報は「裏切者」「愛しているって言ったのに」「約束破るなんて」の3点だけだ。




(なんだろう、浮気者の亭主や彼氏を問い詰める女子の言葉でしかないんだけど……。残念なくらい、何の深みもないわ)


 現実的すぎる事実に、ゲームの美麗な世界との差異を突き付けられてレーナはがっくりと肩を落として項垂れる。


「やはり、私たちが最初に言われた言葉が最も手掛かりになりそうだな」


「1年前のこと? ……えーっと、あんまり覚えていないわ。遊戯と現実との彼女の差が大きすぎて、ショックが大きすぎたから」


 素直に申告したはずが、心底あきれた表情を向けられてしまう。彼の記憶によると、彼女が現れて最初に告げた内容はこうだ――


『あの人のいない世界なんて 太陽のない世界と同じよ』


『こんなに落ち込んでる あたしを 放っておくなんて 子孫の役目 果たす気ある!? あの人 あたしを悲しませないって 言ったのに』


『ひどいわ 愛してるなんて言っといて 自分だけ満足して あたしを放って逝ってそのまんまなわけ!?』


(べた惚れね、精霊姫。それに『子孫の役目』なんて言ってるところをみると、エドヴィンが自分の子孫だって分かってるみたいね)


 真剣な表情で資料の分厚いファイルを捲る横顔を、至近距離からじっと観察する。すると、視線を感じたのか、精霊の血を引くのも納得の美麗な顔がこちらに向けられる。


「なに?」


「エドも綺麗だけど、ご先祖様も罪作りよね。ホント、女の人に不義理はいけないんだからね」


 ふぅ、と大袈裟に溜息を吐けば、彼は「心外だ」と呟いて、むっつりしてしまった。

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