第28話 【攻略対象 辺境伯令息】ドライアド・ラヴィリアの怪奇現象
確かに、美形が怒りのどす黒いオーラを背負って笑う姿など、ただ怒鳴られるよりも恐ろしいだろう。レーナは、直接それを向けられたエドヴィンに同情はする。が、出来れば巻き込まれたくはない。
「あの日までは、そんなこと一度もなかったんだ。なのに今では、樹海に入ると絶叫姫の声に付き纏われる者が多発している。それに耐えつつ採取や狩りを続けてはいる様だが、狩猟採取量はどんどん減っているんだ。このままでは、きっと近いうちに特産である樹海の恵みが手に入らなくなる。この領地の死活問題にもなりかねん……」
「えぇ!? そんなっ」
ただの怪奇現象では済まされない事態となっているらしい。レーナが寝た子を起こしたことによって、樹海の荒廃が進んでしまったようだ。最悪の場面を思い起こしたレーナは、ぎゅっと手を握りこむ。
(まずいわ。この1年で、うちの家族みんな辺境伯たちに凄く世話になっちゃったのよね。なのに、樹海の衰退が引き金になる、シュルベルツ滅亡を早めるなんてことになったら、申し訳なさすぎるわ)
「そこでだ、『次期当主』として、『騒ぎの発端を作った当事者』として、この事態を治めよと父上からの達しがあった」
静かに、怒りも感じられない凪いだ表情のエドヴィンが、向き合ったレーナの双方の肩に両手を置く。ただ置いたにしては強い意志を感じる手の重みに、これはマズイことになりそうだ――とレーナの本能が警鐘を鳴らす。だが、両肩を確保されてしまって動くことは出来ない。
「そこで、だ」
意味深に言葉を切ったエドヴィンが、口角を吊り上げてにこりと笑みの形を作る。しかし、綺麗な半月型を象った目には、形に反して威圧的な暗い光を灯している。
「いま一人の当事者にも責任の一端を担ってもらう必要があると、私は思うんだ」
(似たもの親子ーーー!!)
どっと冷や汗が噴き出たレーナだ。美形の恐ろしさを噛み締めながら、気付けばコクコクと何度も首を縦に振っていた。
この日2人は「勉強よりも、まずは領地の安寧を取り戻せ!」と、ヒーローに向けられるような領主命令を受けた。勉強、鍛練にかける朝から夕刻まで全ての時間を怪現象の解決に費やせと云うことだ。樹海産業を取り巻く事態は、随分と悪化しているらしい。
(気は進まないけど、一般庶民の立場を貫きたいわたしが、ゲーム本来の流れよりもシュルベルツ領の滅亡を速めるワケにはいかないわ! それってもう、一般庶民じゃなくって、滅亡への引き金を引く悪役になっちゃうもの)
それに、最高神リュザスを推すレーナが、彼の世界を壊すのは矜持が許さない。彼には、堂々と顔向けできる状態で逢いたいに決まっているのだ。
今では無意識に手を伸ばすようになった右耳の斜め上にそっと触れる。そこには、感触はなくとも虹色の蝶の髪飾りがある。
(リュザス様! 神々しい貴方に恥ずかしくないわたしで逢えるよう、頑張りますから!!)
フンッと鼻息荒く、両拳を握りしめたレーナだった。
が、しかし。
『ふぅわぁぁーーぁぁあ゛あ゛あ゛ん やぐぞぐやぶる な゛んてぇぇぇーー うーらーぎーりーもぉーーーのぉぉぉおおーーーーぁぁあ゛あ゛あ゛ん』
精霊姫の樹海にいつかと同じ絶叫が響き渡る。




