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第24話 【攻略対象 辺境伯令息】オドロオドロシイ状態の魔力に覆われたモノ


 ぐったりしたまま屋敷へ連れ帰られたレーナとエドヴィンは、急ぎ呼ばれた医師の診察で異常なしと確認された後、それぞれの部屋で休ませられることになった。とは言うものの当人たちは、樹海の中で気を失ったままだったから、目覚めたらベッドの上で昼過ぎだったと云う感覚だ。


 レーナは、ベッドの上で軽食を摂った後、メイドから「昨日の話を聞かせて欲しい」とのドリアーデ辺境伯からの伝言を受け取っていた。気持ち的には、まだまだ休み足りないけれど、騒ぎを起こした自覚はあるから、疲れの抜けきらない身体を引き摺って、どうにか指示の有った部屋へと赴いた。


 そこは、午後の暖かな日差しが降り注ぐ一室で、既に部屋の中央に設えられた円卓にはレーナの父とドリアーデ辺境伯、それに居心地悪そうに小さくなって座るエドヴィンの後ろ姿が在る。


「レーナ! いくら可愛いくても、やってはイケナイことがあるんだぞ!? 愛らしさの尊すぎるレーナに万一のことがあったら、お父さんは肥溜めに飛び込んで、そこを(つい)の棲家にしながらレーナとお母さんに懺悔し続ける自信があるんだからな!!」


「ふふっ、何を言っておるのか全く分からんが。まぁ良いではないか、御父上。我が護衛らの、不足が明らかになる収穫もあったのだ。充分な備えのつもりであったものを、このような子供らに後れを取る事態となるとはのう」


 シュルベルツ領に到着した夜――今となっては一昨日の夜だが、共に飲み明かした父と辺境伯は意外にも意気投合したらしく、今日も揃って茶を飲みながら談義をしていたらしい。その場で、目覚めたレーナとエドヴィンをまとめて呼び出し、精霊姫の(ドライアド・)樹海(ラヴィリア)での話を聞こうではないか……という流れになったようだ。


 辺境伯家で用意された小ざっぱりした衣装を纏った父が、ティーカップを持って、ドリアーデ辺境伯と円卓を挟んで座っている。力仕事をする男らしい太い指が、華奢な陶器の耳を摘まんでいる姿を見たレーナは、注意を受けているはずなのに、ポカンと口を開けてしげしげと眺めてしまった。似合わないとは、こう云うことを言うのだろう。


(うわぁー。ここはゲーム世界(ダンテフォール)だとは思うけど、お父さんのこの絵面は絶対にスチルには成り得ないわ。よかった、お父さんは間違いなく一般庶民(モブ)ね。うんうん、ならその娘のわたしだって、やろうと思えばしっかり一般庶民(モブ)として埋もれられるはず! もう少し大きくなったらリュザス様を探す旅に出るのよ……)


「昨日は、私の力不足により、父上の客人を危険に晒してしまったこと。まずはお詫び申し上げます。レーナ嬢、御父上。この度は大変申し訳ありませんでした」


 ぼんやりと考えに浸っていたレーナは、隣で深々と頭を下げたエドヴィンの言葉でようやく我に返った。


「あ、ですです。わたしも、お詫びもうしあげます」


 考え事をしていたせいで、おざなりになってしまった謝罪の言葉に、父がぎょっとした様子を見せる。けれどそれには構わず、エドヴィンに倣って頭を下げる。すると、レーナの肩に着くおかっぱ髪がサラリと流れて、右耳の上で虹色の髪飾りがキラリと光った。


「んんんっ!? レーナ、それは!?」


 父がいきなり気色ばんで腰を浮かせながら、ギロリと鋭い視線をエドヴィンに向ける。いや、なんでその反応? とレーナが首を傾げれば、父が「小さくても男は男か……油断ならん!」などと憤然と口走っている。反対に、ドリアーデ辺境伯は面白いものを見たとばかりに軽く両目を見開いた後、両方の口角を吊り上げた。


「御父上、残念ながらレーナ嬢の髪飾りは、我が息子から贈った物ではなさそうだ。誰かの魔力が妄念の様に絡みついているが、我の見知った者ではなさそうだからな」


 わざとらしく溜息を吐きつつも、楽し気に告げられた内容は物騒なものだった。どうやら彼は『魔力』の性質を見分けることが出来るらしい。警邏隊詰所の屋外訓練施設では、離れたところからレーナが修繕(リペア)を使ったことにも気付いていたようだった。やはり攻略対象エドヴィンの父親で、精霊姫(ドライアド)の血を引く彼は、ハイスペックな存在のようだ。対して、レーナをはじめ、父母も、なんならご近所の皆さんにも魔力を見分ける能力など無い。魔力とは、道具に溜めて使うことのできる便利なモノという認識なのだから。


 ただし、全く気付いていなかったが、今現在レーナの頭に付いているらしい(・・・)髪飾りは、便利な魔力ではなく、妄念などと云うどこかオドロオドロシイ状態の魔力に覆われているようだ。

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