第172話 【攻略対象 最高神リュザス】森の宝珠、飲まれる(後)
「だからっ……! だから、ここに留まれるようにっ、ギリギリまで足掻いて!!」
『たしかに、そうね』
即座に、レーナの不器用な励ましに気付いたプチドラが、精一杯強気な笑みを浮かべる。
『小さい可愛さを前面に出したあたしには、本体とは違う魅力がギュギュッと詰まってるんだから。負けないわ』
「じゃあ、その魅力をちゃんと見せてくれるのを楽しみにしてる。約束だよ」
『まかせなさい。ビックリして……腰抜かすんじゃないわよ』
微かに、レーナに向けて身を起こしたプチドラが、鬱陶しいものを払う様に手先をスイと動かす。
それを見て微かに微笑んだレーナは、キッと引き締めた表情でアルルクに向き直った。
「アルルク、シュルベルツへ急ぎましょう!」
「あ? ああ……」
揚々と踏み出したレーナだが、受けたアルルクは戸惑い、腑に落ちない表情で首を傾げる。
「いや、やっぱ行けないって! レーナを連れてくのは どー考えてもおかしいだろ!?」
「あぁ、私も同感だ。ご先祖様が仰った通り、レーナには最高神の虹色の魔力が憑いている。それでも、精霊姫の樹海や、火龍の迷宮で危険な目に遭ったのも事実だ。だから、行かないで欲しい」
アルルクの混乱した大声にに続き、エドヴィンが真剣な眼差しをひたとレーナに向けて説得する。
「同感ですね。今は緑の淑女が襲われましたが、レーナさんが狙われる可能性も高いのです。この国の魔導士を束ねる私でも、最高神と同じ虹色の魔力を持つ者など見たことはありませんから」
引き継ぐように、静かにレーナらの遣り取りを静観していたバルザックが口を開いた。
「黒い男は、陽の宝珠の化身だと言っていましたね。彼は、他の宝珠の力を手に入れるとも。分かたれた最高神の力をひとつに集め、最高神に近付こうとしているのでしょう。ならば、最高神と等しい虹色の魔力を取り込めるレーナさんを見逃すでしょうか?」
彼女の魔力を探る様にじっと見詰めながら、自身の考えを連ねる。その言葉が途切れるのを待ちかねたように、次いで声を上げたのはシルヴィアだ。
「レーナさんの虹色が眩しいくらい凄い力なんだってことは私もわかります! けど、レーナさんは無条件な守りの力を持つ超人なんかじゃないんです! 熱いお茶を掛けられたり、穴に落ちちゃったり、いっぱい大変な目にも遭っちゃう、か弱い女の子なんです!!」
危険な目には遭わせられない……と、大きな瞳を潤ませて訴える。
「魔力の弱い私には、その色を見ることは出来ないが……」
クラウディオ王子が言いながらレーナの周囲に探る様に視線を走らせる。だが、やはり何も見ることは出来なかったのだろう、苦笑を浮かべつつ言葉を続ける。
「聖女レーナが虹色の力を持っているのなら、早晩あの男は君を狙うだろう。恐ろしいのは解る。だが、不安のまま動かないでくれ。我々に……いや、私に――君を守らせて欲しい」
クラウディオ王子が胸に手を当て、訴える視線でじっとレーナを捕える。怒涛の説得コンボに、レーナが反論を言いあぐねてムググと口籠れば、更に部屋の窓を塞ぐ大きな姿が現れた。
『ぼくもっ! ぼくもレーナに危険な目に遭ってほしくなんか ないよっ! レーナは、ぼくの大切な恩人なんだからっ!!』
つぶらな瞳に強い意思を讃えて、必死に訴えるのは巨大な土の宝珠の化身だ。
これだけの人数に説得されては、普通ならば否やとは言いにくい。だがレーナは普通ではない。
(この世界は、攻略が上手くいったって衰退するのよ。それが分かってるのはゲームの中で12回もこの世界の異変に立ち向かったわたしだけなんだもん。はいそうですか、なんて言えないのよ! しかも衰退の進みがゲーム以上に速いのよ!! 時間が無いのよぉぉ)
ゲームを通して、このままでは世界の崩壊が不可避だと知っているのだ。




