第171話 【攻略対象 最高神リュザス】森の宝珠、飲まれる(前)
『うそでしょ……精霊姫と……森の宝珠が、飲まれたわ』
枯葉の様に、地面にぺたりと貼り付いたまま動かないプチドラに、顔色を青くしたエドヴィンが駆け寄って抱き上げる。
「ご先祖様!」
『心配ないわ、子孫……。あたしが消えても、あたしの血を引くあんたたちは遺るんだから』
満足げに笑みを浮かべるプチドラは、エドヴィンの両腕に抱えられて、力の入らない手足をヘタリと投げ出している。
「助けに行くぞ! 緑頭!!」
使命感に突き動かされて、勇ましく声を上げたのはアルルクだ。彼は窓に向かいながら、ハッと顔を上げたエドヴィンを促すように大きく頷いてみせる。
龍化して窓から飛び立つつもりなのだ。
「あぁ!」
エドヴィンが、力強く返事をして立ち上がる。
だがレーナは慌てて、そんな彼の腕を掴んで引き留めた。
「待って! このままにしたら、プチドラちゃんまで消えちゃう! エドはプチドラちゃんに魔力をあげて。クロ男のところには、わたしがアルルクと向かうから!!」
ぐったりしたプチドラを示しながら言えば、打倒黒い青年で頭に血が昇っていたエドヴィンの表情に迷いが生じた。
「プチドラちゃんは、精霊姫や、森の宝珠と魔力を分け合ってる。力の源となる2つが無くなった今、小さいプチドラちゃんがどれだけもつか……。放っておけば、このまま消えちゃうかもしれないわ」
プチドラも宝珠も、元はと言えば最高神リュザスの力を分けたものだ。力そのものが具現化したものだから、魔力補充で延命措置は出来る。更に彼らが存在する力を持続するには、人間たちからの「信仰」や「想い」が必要となるのだが。
「子孫のエドがプチドラちゃんを思って、魔力を送り続ければ、何よりの力になるはずよ」
プチドラを作り出したレーナの言葉に、エドヴィンが瞳を揺らした。腕の中でぐったりしている彼女を気遣わし気にそっと抱き直して、すっかり覇気の抜けた緑髪の少女の顔を見詰める。心配、その2文字が顕わな表情だ。
『気にしないで。あたしは思うままに生きたし。自由に生きてる子孫たちも見れたから満足だわ。あの人のところに……やっと行けるって思えば――』
儚げな微笑を浮かべるプチドラは、心細げなエドヴィンを慰める言葉を紡ぐ。
「残念だけど、それは無理ね」
レーナが、思い遣りに満ちた場面をぶったぎった。
「レーナ!?」
アルルクが困惑の声をあげるが、レーナはキュッと唇を引き結ぶと、2人を見下ろす。
「だって、そこに行けても、彼のもとには間違いなく本体が居るでしょ。取り合いになったら小さいプチドラちゃんじゃあ、勝てないんじゃない?」
弱りきったプチドラを絶望させるレーナに、アルルクとエドヴィンは彼女の思惑を図りかねて眉を寄せる。だが、レーナは薄情な言葉とは裏腹に、瞳を潤ませながら、ピッと立てた人差し指をプチドラに突き付けた。




