第169話 【攻略対象 最高神リュザス】憑き物の取れた王女を編集
取り戻された宝珠は、シルヴィアによる念入りな浄化が施された後、陽の宝珠の台座に戻された。
並行するように、王女への聴取が行われた。血縁による敬称で『聖女』の任に就いていた王女は、特別な能力を持つ『真の聖女』シルヴィアとレーナの出現により、危機感と嫉妬に苛まれていた。そんな彼女に付け入る様に現れた黒い青年は「僕の力になる特別で可愛いヒト」と幾度も囁いた。王女はまんまと黒い青年の甘言に浮かされ、言われるまま窃取の手引きを行っていたのだ。
命を奪われかねなかった今となっては、彼への心棒は捨て去り、懺悔と共に証言を行うに至った。
「私が、あの方から教えられた場所に、手の者を向かわせましたわ。けれどそこにあったのは、祠と呼べる代物ではなく、朽ちて土に還るのを待つだけの、崩れた小屋だったそうですわ」
だから、持ち帰った者もそこにあった珠が宝珠であるとは半信半疑だったようだ。
しばしば王都に強風被害が起こるようになり、ようやく大気の宝珠だと納得したらしい。
それならば、元の祠に戻すには、まずそこを直さねばならない。祠は、王国の辺境であるプペ村よりも尚離れた人里遠い場所に在る。直すどころか、辿り着くだけでも時間のかかる場所だ。
だから大気の宝珠は、暫定的に陽の宝珠の台座に置かることとなり、尖塔の結界も再度構築された。と同時に超特急で大気の宝珠の祠へ、神官と建造職人が差し向けられた。
大気の宝珠を仮安置した尖塔には厳戒体制が敷かれたが、一週間を経ても黒い青年は、それきり姿を表すことはなかった。
―― 楽しみにしていて ――
黒い青年の言葉通りなら、再びレーナらの前に現れるつもりなのだろうけれど。
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王城へ至急の一報が入ったのは、騒ぎから20日後の早朝だった。
『大気の宝珠』の祠調査に派遣されていた神官が、火急の知らせをもって帰還したのだ。草臥れた男2人を連れ帰った神官は恐ろしい知らせをもたらした。
「宝珠不在となった祠に最も近い村が、瘴気に包まれておりました」
その村の名は「プペ」。
村一つを包む瘴気の発生など、王国史を紐解いても見付かることはない。これまでの瘴気の発生記録では、大規模といえども平民の家一軒を包み込む程度の規模が15年ほど前に観測されたくらいだ。
すぐさま国王を始めとした要職に就く者達が集められ、対策を講じるべく会議が行われた。だがその内容は、蔓延る瘴気への対策を練るものでもなければ、村民を避難させる方策を考えるものでもない。
神官と共に登城したプペ村の村長と、村立警邏隊隊長の2人が証言したのだ。村人は皆無事で、既に平穏を取り戻している、と。
「魔族の騒ぎがあった川の方から、黒い靄が漂って来たんです。村に向かって。靄は草や木を黒く変えながら進んでおりました。
何かは分かりませんでしたが、これは良くないものだと……。直観ではありましたが、慌てて村人皆を避難させました」
疲労を滲ませつつも、当時の英断を思い起こして晴れやかな表情で語ったのはプペ村の村長だ。
「3年前、その川で村の子供2人が魔族に襲われる騒ぎがあったんです。
なんでここ数年は特に、警邏隊での巡視を強化しておりました。そのおかげで誰一人逃げ遅れることなく、靄……いえ、瘴気と仰るものから逃げることが出来ました」
警邏隊長は、その時のことを思い出して興奮気味に語る。
「その証言をもとに件の川を調べましたところ、至る所に真新しい異形の獣の屍骸が転がっておりました。意図的に集めた様に積み重なった光景は、異様としか言いようのない悍ましきものでした」
神官が神妙に語り、現場の状況を写したスケッチを国王や大臣に示せば、皆が一様に言葉を失う。
「瘴気は、その獣から発生したのか?」
顔色を悪くしながらも、宰相が神官に尋ねる。
「おそらく、そうであった……かと」
応える神官の答えは、歯切れが悪い。
「調べることが出来れば、間違いなくそう答えが出たはずです。ですが瘴気同様、屍骸も我らの調査を待たずして消え去ったのです。尖塔に現れたのと同じ黒い男が、全てを一瞬で消し去って行きました」
黒い青年は、大気の宝珠の加護を失った地に瘴気を発生させ、それを取り込んだのだ。
再び力を得るために。




