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第15話 【攻略対象 辺境伯令息】眉間に皺寄るスーパーヒーロー


 使用人らの間に流れた奇妙な雰囲気の原因は、そのすぐ後の晩餐の場で知ることが出来た。


「お前か! 父上たちに、踏みつぶした毛虫以下を見る目を向けた、ウワサの娘は! カケラでも審美眼を持ってれば見惚れる顔なのに……。お前、凄いな!!」


 レーナと父が晩餐室へ入るや、先に着座していた少年が弾む気持ちを抑えきれないのか、頬を上気させて声を上げた。ヒーローを見るキラキラした視線を向けて来る少年に悪意はないのだろう。けれど、何とも言えない微妙な気持ちになる褒め方だ。


(しかも、この子――攻略対象よね!)


 レーナが声の主を改めて見れば、ドリアーデ辺境伯と同じく緑の髪と、エメラルド色の瞳の少年だった。家族だと紹介されなくともわかる、精霊姫(ドライアド)の血を引くことで現れた特徴的な色彩の容姿だ。ゲームの設定では、今の少年はレーナと同じ12歳であるはずだ。彼とドリアーデ辺境伯の他、テーブルには淡い金髪の神々しい美女、そして彼女と瓜二つの幼い女児が揃っていた。


「父上、ご覧ください! 今も、蜻蛉がアクロバット飛行するのを眺める目です。本当だったんですね!」


 尚も、興奮ぎみに話し続ける幼き攻略対象に、ドリアーデ辺境伯が満足げな笑みを浮かべて「そうであろう」と大きく頷く。


「言ったでしょ、父上は嘘など仰いませんと。けれど本当に……」


 女神と見紛う美貌の夫人は、何が心に刺さったのか、うるりと目を潤ませて微笑む。


(あああ……やっぱり、ドリアーデ辺境伯の息子が攻略対象だったよ! 近付きたくないのに、何この興味の持たれかた!?)


「レーナ、こいつら変じゃねーか?」


 父が、ドン引きした表情で呟けば、ドリアーデ辺境伯の表情までもが輝き出す。


「やはりお前たち父娘は面白い。今宵は心行くまで楽しもう」


 定番の「面白い奴」認定を受けてしまったレーナらは、今度は辺境伯一家から珍獣を見る目を(約一名は憧れのヒーローを見る目だが)向けられて、落ち着かない晩餐を摂るのだった。





 晩餐最後のメニューであるデザートが供されたところで、辺境伯が父を晩酌に誘った。ふと視線を感じて元を辿れば、レーナに向けて声を掛けようとしているのか、口元をむぐむぐさせた辺境伯子息(こうりゃくたいしょう)と目が合う。


(いや待って!? 話し掛ける気満々よね、けどわたしは貴方を攻略する聖女様じゃないからっ! 貴族女子に消されかねない、ただの一般庶民(モブ)村娘だからねっ)


 父が、高貴な人との差し飲みからの救出を乞う顔を向けて来るが、レーナだって自分で手いっぱいだ。心の中で、父に「がんばれ」とエールを送りつつ、子息の機先を制することを優先する。


「じゃ、なれないことが多すぎて、いっぱいいっぱいですし、(きらきらしい美形の見過ぎで目が)疲れてしまったので、先に休ませてください」


 慌ててレーナが宣言すれば、子息は目に見えてしょんぼりした表情になった。


 ゆっくりと時間の過ぎる貴族の食事を、美形集団に凝視されながら摂る時間は、レーナにとって想像以上の苦行だったのだ。これ以上美形貴族集団の遊興に付き合わされては、こちらの胃がもたない――と、頑なな態度で辞去を押し通す。


 これでようやく心の平安が手に入れられる。と、レーナが細やかな抵抗の成功にほっとしたのも束の間、令息が満面の煌びやかな笑みを浮かべて口を開いた。


「ならっ、明日は私にシュルベルツ領を案内させてくれ! 緑豊かな美しい土地だから、きっと疲れもとれて癒されるはずだ」


「えぇー……」と声をだすのは耐えたが、彼女の表情には現れたらしい。


「眉間の皺も、下がった口角も、死んだ猪の目みたいな曇りも、明日にはきっと綺麗になくなってピカピカになれるぞ」


(なによ、この乙女心を踏みにじる発言のオンパレードは!? これがホントに攻略対象エドヴィン・ドリアーデなの!?)


 自信満々に告げる令息に、不覚にもグーに握った手を振り上げそうになるレーナだった。

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