第134話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】爆炎と共に登場!
生い茂った木々を遥かに越えて、天高く立ち昇った白い爆煙。
たった一度の爆発ではあったが、魔法障壁に囲まれた森のあちこちでは、実習で居合わせた生徒らの悲鳴と叫び声、そして鳥獣や、魔獣らの怯えた鳴き声が上がる。
「ふはははは!! 恐れ慄いたか小童ども! 我こそは爆炎の魔女なり! 芳しき魔力持ちの気配に導かれて、おぞましき闇の深淵からやって来たのだーーーー!!」
『きゃー! たすけてぇーーー』
拡声魔法を使ったのか、森中に悪人然とした女の声と高笑いが木霊し、次いで怯える少女の悲鳴が響き渡る。その声に導かれて森に居合わせた者たちは、忽然と空に現れた姿を見上げた。
暗い雲に覆われた空には、火炎を纏って形の判然としない影が浮かんでいる。その手と思しきものには、小さな少女が捕らえられていた。赤ん坊ほどの大きさしかない、緑髪の少女。1年C組の面々は、それがレーナの従魔だと悟って息を飲む。もしや、主である黒髪の少女に何かあったのか――と。
「我の力を、とくと味わうが良いーー!」
生徒らの動揺がおさまる間もなく、魔女と名乗った女が芝居がかった節回しで声を張り上げ、大きく体を動かす。
ごごごごご……
地鳴りが轟くと共に大地が揺れ、森の木々の枝が宙を掻いて、ザワザワと音をたてる。
「生徒に手出しはさせない!」
すぐに鋭い声があちこちから上がり、森の至るところから、色とりどりの光線が発射される。魔獣討伐の実地訓練を見届けるため、森中に散らばっていた引率教員らが放った攻撃魔法だ。生徒らとは段違いの威力を纏った魔法が、不審者に集中する様は、見る者に事態の収束を確信させる力に満ちている。
だが、光線は影の手前で弾かれ、あるいは霧散した。
「ふはははは、はーーーっはははは!! 我の力を思い知ったか!」
絶望的に強すぎる正体不明の『爆炎の魔女』に、運悪く居合わせた者たちは恐怖の念を覚えた――数人を除いて。
「気のせいか? ご先祖様と……レーナ?」
「にしか見えねーぞ」
「気配が地下に消え去ったはずなのに、どうして空に浮かんで現れてるんですかぁ!?」
最初に爆煙を発生させた3人が、揃って首を傾げている。
生徒らは、爆煙直後に派手な登場をした爆炎の魔女が、爆発を起こしたと思っている。けれど、実際はこの3人の仕業だ。その証拠に、レーナが引き込まれた金花樹の根本は魔法の攻撃を受けて一部が黒い炭と化している。
「何故あんなに無意味に目立つ芝居をしているんだ?」
「無事だったから 良いんじゃねぇ?」
「事情がおありなんですよ! お困りかもしれないですし。私、直接聞いてみますっ! レー……」
レーナの名を叫ぼうとしたシルヴィアだが、それは叶わなかった。不意に彼らの目の前に、紫髪の青年が現れたからだ。彼は口元を穏やかな笑みの形にしつつ、けれど鋭い視線を向けて、何もするなとばかりに3人を威圧する。
「レーナさんからの伝言です。少しの間、様子を見ていてください、と。私も正直、レーナさんの手伝いをしながら、みなさんの相手をするのは少々骨が折れますから、そうしていただけると助かります」
上空の黒い影――レーナに視線を遣りながら、優雅な身ごなしで現れたのは、バルザックだ。取り澄ました表情ではあるが、彼の全身から溢れる魔力を感じ取ったエドヴィンとシルヴィアは、その強大な力に思わずたじろぐ。だが、彼らを慄かせるバルザックの魔力は、レーナを浮遊させ、彼女の声を遠くまで運ぶことに使われている。実にくだらない用途だ。教員らの攻撃を防いだのも彼の助力によるものではあるが。
「先生は、一体何をなさっているのですか?」
バルザックの起こした現象に気付いたエドヴィンが、心底怪訝そうに顔を顰めて問い掛ける。
「茶番を演出しているのですよ。くだらない舞台ではありますが、世界の命運を担う崇高な目的があるのです」
くつくつと笑って、レーナを見上げるバルザックの視線が、そのときばかりは柔らかい光を宿したことに、エドヴィンは胸がモヤモヤとすることを感じて唇を噛む。
その時、再度地面が大きく揺れて、上空のレーナが再び朗々と響く声を上げた。
「無慈悲で暴虐非道な我に、成す術もなくひれ伏すがいいーーーー!」
『みんな大変ーーー! こんなに強い魔女じゃあ、誰も歯が立たないわっ。どぉしましょうーー!!』
もう終わりだわと、わざとらしく大きな身振りで両頬に両手を当てて不安感を煽るプチドラは、彼女を見慣れたエドヴィンには楽し気にも見える。
「地面を揺らしているのは先生じゃない誰かの魔法ですよね。それに木が殊更大きく動いて、人を傷付けないように細工しているのは……うちの従魔、ですよね」
「察しが良いですね。そろそろこの茶番も大詰めです」




