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第122話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】生徒会のモブらしい雑務


 王立ダルクヴィスト貴族学院が誇る、広大な敷地の棟と棟を繋ぐ石畳の道。


 整然と敷き詰められた滑らかな石は、開学から100年を超えて続く由緒ある学院の長い歴史を経て存在している。


 コンコン……カンカンカン


 丁度取り換え時となってしまったのか、一日中、あちらこちらで石工や左官工が修復を行う姿を目にする。新入生のみならず、在学生らにとっても目になじんだ光景だ。

 レーナの傍を、大量の泥を積んだ荷車を曳く職人が通り過ぎると、その陰から、いつもなら遭遇しない様に気を張っている人物のひとり――シルヴィアが、猛然と駆け寄って来た。


「レーナさん! やっと捕まえましたよ!! 今日という今日は、ちゃぁんと生徒会役員のお仕事を、やってもらいますからね!」


「ぇえっ!? 隠れながら近付いて来たの!?」


「こうでもしなきゃ、レーナさんったら生徒会役員を見るなり逃げちゃうじゃないですか!」


 憤慨するシルヴィアの言う通り、レーナは徹底的に『生徒会』と言う名の主要キャラの巣窟から距離を取っている。クラウディオ王子を始めとした、生徒会役員の姿を認めるなり、辺境で鍛えた体力で物理的に逃げ、あるいは招集をかけられれば、入学時に認められている『従魔(・・)を定期的に緑の多い場所に連れ出す』権利を行使して不参加を決め込んでいるのだ。


「レーナさんには、ご自身の都合の良い時に出来るお仕事を持ってきましたから! これは、ちゃぁんとやってくださいねっ」


 唇を尖らせ、令嬢らしくなく走ったせいで頬を上気させているシルヴィアは、主人公らしい可憐さを遺憾なく発揮して来る。さすがヒロイン・と感心しているうちに、レーナに託された生徒会業務の書かれたメモを手渡されてしまった。


「何これ……。学院敷地の地面陥没箇所をまとめたマップ作り? これって今職人さんたちが取り掛かってくれている工事箇所も含むのよね。老朽化の分析でもするつもりかしら。それとも抜けが無いか調べたいってこと……? それに、強風発生箇所と条件の聞き取り調査。ビル風みたいなもの? で、最後は瘴気発生報告の収集って? 学院の傷み具合はよっぽどひどいのね」 


 紙面に列挙されている、細々した作業が必要な業務内容に、思わず顔を顰めたレーナだ。生徒会では自主的な企画の他、生徒からの嘆願をもとに、学院をより良くする活動全般を執り行っている。とは言え、レーナに課せられたのは、モブらしい雑務のようだ。だからレーナは、ほんの少し安堵に表情を緩ませる。


「目立つ仕事じゃないんなら、時間を作ってやっておくわ。報告とか、華々しいところはシルヴィアさん、お願いね」


「もぉ、ご自分の成果はちゃぁんと主張した方が良いですよ! 役員の中には、クラウディオ王子を含め、将来国の要職を担う皆様も在籍していらっしゃるんですから」


「そんなのは一切要らないから。必要ならシルヴィアさんの成果にしちゃっても良いわ。わたしは自由に動けるモブであることが、一番の望みだもの」


「そんなこと仰らないでくださいっ! 私はレーナさんの行動力と、俯瞰した物事の見方がとても素晴らしいって、尊敬しているんですからっ」


 入学以来、モブコーリアと同じく何かと貴族のやっかみで嫌がらせなどの細やかな事件に巻き込まれるレーナを、ゲーム通り心優しいヒロインであったシルヴィアは気に掛けていた。だけれど、たいていの事件は毅然とした態度と行動力で自ら解決してしまうレーナのことを、いつしか彼女は尊敬してしまったらしい。


(うーん、困ったわ。わたしに行動力があるとすれば、ゲームで培った知識が、現実となっても通用するかを知りたくて、好奇心のまま動いてるだけだし。俯瞰した物事の見方をしてるって云うのは……記憶しているゲーム12巡分のキャラクターの行動と、イベントの起こるべきタイミングを網羅して対策できちゃうからなんだけど)


 自分自身は優れてなどいないのに、と困惑しきりのレーナに、すっかり心酔しているシルヴィアは尚も自分の熱意をぶつけて来る。


「だから、これはっ、ちゃあんとレーナさんの成果として報告しますからねっ!」


 眉をつり上げながらも、すがるように頬を染めて見詰めながら、両手でギュッとメモを持つレーナの手を包み込んでくるシルヴィアだった。

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