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第119話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】不覚! 貴族らしい遣り取りでレーナは言質を取られる


「なんですの!? この私を立たせておきながら、平民が腰を下ろしてっ……礼節は何処に行きましたの!? しかも下賎な者までが、私をっ、値踏みする不躾な視線を向けるなんて、無礼ですわ!!」


 だから下々の者と学院に通うなど我慢がならないのだと、眉を吊り上げ、目を剥いて、唇を戦慄かせる彼女は、見覚えあるカロリーナ伯爵令嬢だ。錯乱している様だが、これこそがレーナの見知った彼女だ。


 正気に返った彼女に、バルザックは解りやすく落胆の表情を浮かべると、クルリとレーナを振り返る。


 その顔は、期待に満ちており、これから起こるべき特別なものを早く早くと急かしている。


「無理ですからね?」


 あっさり返したレーナだが、バルザックは尚も食い下がろうと何かを言いかける。


 だが、声が発せられる前にフワリと浮かんだプチドラが、間に割って入った。


『レーナに他の男が命じて何かさせるなんてしたら、我が君の不興を買うわ。そしたら、居合わせたあたしにまで被害が及ぶじゃない! やめてよね!!』


「プチドラちゃん?」


 被害を及ぼす(・・・)のは、恐らくリュザスのことなのだろう。推しへのあまりの言われ様に困惑の声を上げるレーナだ。だが同時にこれまでの経験から、それが大きな勘違いでないだろうことも理解してしまう。


「そうか。レーナ嬢にも何か事情があるのだな」


 やけにあっさりした口調で、にこやかに王子が話を断ち切る。


「だが、クラウディオ王子っ」


 言い募るバルザックを片手を上げて制した王子は、困った奴だとでも言いたげに彼へ一瞥をくれると、レーナへひたと視線を会わせた。


「だが、分かっても欲しい。私は学院生たちが身分の隔たりなく尊重し、研鑽し合う環境を作るため尽力したいと考えている」


 憂いを帯びたクラウディオの瞳が、ひっそりとした熱を灯しつつレーナを捉える。


(さすが、タイトルで最も大きく描かれていただけあるわ。目力と汎用性のある美形ね。けどリュザス様には及ばないし、平凡(モブ)村娘ライフのためにメインキャラには関わりたくないわ)


 冷めた思いを向け続けるレーナを余所に、王子の言葉は続く。


「彼らの矜持を無視しようと言うのではないんだ。せめて、話し合いの席に着くだけの、譲渡を促す手段として、協力を仰げるのなら……とね」


「そりゃあ、わたしに協力できることがあるなら」


「レーナっ!?」


 つらつら続く王子の言葉に、適当な相槌を返した途端、エドヴィンがガタリと音を立てて腰を浮かせる。


「え?」


「そうか、ありがとう」


 困惑するだけのレーナに、エドヴィンはグヌヌと唇を噛み、王子はにこりと微笑む。


 ただただ困惑するレーナを他所に、エドヴィンをはじめとした、ヒロインのシルヴィア・カルタス男爵令嬢、カロリーナ子爵令嬢、紅茶降らし令嬢、バルザック・リュトルンら貴族側の人間は、困惑と驚愕、或いは羨望の入り混じった表情を浮かべている。


 いつの間にか、貴族らしい遣り取りでレーナは言質を取られたらしい。


「これからよろしく頼む。レーナ嬢」


 訓練された表情筋をもって爽やかな笑顔の形を造り出したクラウディオが、王子らしい圧を持ってレーナに手を差し出す。


 救いを求めて視線を向けた先のエドヴィンが項垂れたのを見て、レーナは頑なに平凡(モブ)村娘であろうとしたことが裏目に出たことを悟った。


(まさかそれで生徒会入りが決まるなんて、普通考えないでしょう!!)


 心の叫びを上げるが、もはや後の祭りだ。王族相手では平凡(モブ)村娘の分が悪いのはレーナでも分かる。



 この日、王立ダルクヴィスト貴族学院開学から初めて、平民の生徒会役員が誕生した。

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