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I am Aegis/Origin 3  作者: アジフライ
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第30話【燃え上がる冷たい心】




「総員、 位置につけ! 」

「聖職者たちは怪我人の手当てを! 」

「早く一般市民を避難させろ! 」

爆心地では冒険者達が一般人たちを救助、 及び避難させていた。

そしてエルは……

「クソ……何なんだこの力……! 」

「上級の水魔法も全然役に立たない! 」

エルを止めようと何十人もの魔術師や戦士職の冒険者達が死闘を繰り広げている。

『……凍れ……』

エルは不気味な声でそう呟くとエルに目掛けて飛んでくる魔法による攻撃が全て凍らされていく。

というより、 氷そのものとなっているのだ。

それは雷の魔法だろうと、 炎の魔法だろうと……何もかもが氷となっていく……

「クソが! 魔法が効かねぇなら剣で! 」

『うおぉぉぉぉ! ! 』

魔法が効かないのを見た戦士職の冒険者達は一斉にエルに襲い掛かる。

しかし……

『……灰となれ……』

エルがそう呟いた瞬間、 冒険者達が持っていた剣が一瞬にして灰となってしまった。

「馬鹿な……金属を灰にするなんて……一体どんな力だよ……! 」

成すすべのない冒険者達……するとエルは両手を広げる。

『……全ては蒼き氷に閉ざされ……全ては紅き炎で無へと還らん……さぁ……氷よ……炎よ……』


『その体……魂……心をも……全てを凍てつかせ、 焼き尽くせ……! 』


次の瞬間、 エルを中心に巨大な炎の波が波紋のように広がった。

その炎に冒険者達は全員呑み込まれた。

すると今度はエルを中心に冷気のようなものが発生し、 炎を氷へと変えた。

炎に呑み込まれた冒険者達は一気に氷の中に閉ざされてしまった。

その様子を遠くから見ていた他の冒険者達は絶望の表情を浮かべる。

「何なんだよ……あの怪物……琥珀等級の冒険者達を……何十人も……一気に……」

私は……弱い…………




嫌だ……もう……捨てられるのは……嫌……




エルの過去の記憶が蘇る……




お父さん……お母さん……どうして……愛してるって……言ったのに……




嫌だ……私を……置いて行かないで……




嫌だ……嫌だ……!




私を……捨てないで……!




その時……

「フンッ! 」

『ッ……』

どこからか光の刃がエルに目掛けて飛んできた。

エルは氷の壁で防御し、 刃が飛んできた方向を見た。

そこにいたのは……

「逆さ星の幹部がここにいるとジーラ殿から聞いて来てみれば……いつかのお嬢ちゃんがあんな怪物になっているとは…… 」

『キュー……サス……? 』

そう、 天星騎士団の団長であるキューサス将軍だったのだ。

実は数日前、 騎士団は逆さ星のアジトを突き止めるべくレムレンソアルへ渡っていたのだ。

そしてジーラの手引きにより騎士団はトルムティアに来ていたところ、 偶然この事態に出くわしたのだった。

…………

「全く……派手にやらないようにと言ったけど……キューサス様大丈夫でしょうか……」

キューサス以外の騎士団は一般人の避難を手伝っている。

そんな中、 ミュリアはキューサスを心配している様子だった。

「心配したってお前らにできる事はなんもねぇよ、 あのジジィに任せとけ」

ミュリアと共に行動していたジーラは彼女の様子を見て言った。

彼はこの騒動に参加しようとしたところ、 キューサスに止められた。

ジーラの力による更なる被害拡大を懸念した故である。

「それは分かってますけど……」

(キューサス様……どうかご武運を……)

…………

「さて……いつかのお嬢ちゃん……まさか君にこんな力があったとは……」

『邪魔……だ……』

彼女は構わずキューサスを無視して通り過ぎようとする。

しかし

「どこへ行くつもりだい? 済まないがここを通す訳には行かん! 」

キューサスはエルの前に立ちはだかる。

するとエルは片手を広げた。

『……私は……全てを消す……この世界のスベテを……』

そう言うとエルの片手から氷が現れ、 次第に氷は剣のような形になっていく……

「そんな事をして何の意味が――! 」

『もう分かったの……どれだけ信じようとしても……皆私を恐れて離れていく……その度に私の心は辛い目に遭う……救いの無い現実も今まで見てきた……私の心は……もう限界なの……もう要らない……こんな弱い私も……私を『怪物』だと言って受け入れてくれない世界も……』




『私を面倒事だと言う……シュラスさんも……』




そして氷の剣は完成し、 瞬く間にその剣は炎に包まれた。

しかし剣は溶ける事無く燃え盛っていた。

「……何があったのかは知らぬが……これ以上の被害は出させん! お嬢ちゃんの為にも! 」

そしてキューサスは剣に魔力を込め、 目にも留まらぬ速さでエルの方へ向かっていき、 剣を振りかざす。

しかし、 エルは自分の身長の二倍もありそうな大きな剣を片手だけで持った氷の剣で受け止めたのだ。

そんなエルの力にキューサスは驚愕する。

「まさか! 儂の剣を受け止めただと! ? 」

隙を付かれたキューサスは横から飛んできた氷の塊に突き飛ばされた。

しかしキューサスも負けまいと体制を立て直し、 再び高速でエルに斬りかかった。

エルは片手に持つ剣一本でキューサスの攻撃を全て防御している。

「ヌゥ……これ程の相手……かつて戦ったドラゴン以来かもしれん……」

そう言うとキューサスは剣に膨大な魔力を込め始めた。

次の瞬間……

「これだけは使いたくなかったが……喰らうがいい! 」


「龍殺之流星群! ! 」


キューサスは残像を作りながらエルの周囲を駆け回り、 ありとあらゆる方向から巨大な光の刃を一斉に飛ばした。

そして刃はエルいる場所に着弾し、 砂ぼこりを舞い上がらせた。

「はぁ……はぁ……やはりこの技は老体に堪える……」

技の反動で疲れ切ったキューサスはその場で膝を着く。

すると……

『……もういい……邪魔だ……』

舞い上がる砂埃の中からエルの声が聞こえた。

それを聞いたキューサスは驚愕する。

「まさか……超位ドラゴンをも簡単に葬る技だぞ……! ? 」

そして砂埃の中から全くの無傷で佇むエルが現れる。

彼女はキューサスの前に歩み寄り、 剣を振りかざした。

『……』

「ッ! 」

絶望かと思われたその時……

『キィィィィンッ! ! 』

激しい金属音が辺りに鳴り響いた。

キューサスは無事だった。

そして彼の目の前には……

「……やめろエル……」

「シュラス殿……! 」

剣を構え、 エルの剣を止めるシュラスが立っていた。

「キューサス……ここは任せて欲しい……どっちにせよお前はもう戦えない……」

「かたじけない……では頼む……」

そしてキューサスはその場から撤退した。

『シュラス……さ……ん……』

「……」

エルはシュラスの顔を見ると距離を取った。

するとシュラスは剣を鞘に納めた。

「……エル……」

シュラスがエルに何か話そうとすると

『やめて! それ以上聞きたくない……私なんて……ただの怪物……心が弱くて……力も制御ができない面倒な怪物! シュラスさんは今までそんな風に思っていたんでしょ! 』

エルはそう叫ぶと剣を振りかざし、 シュラスの方へ目掛けて振り下ろした。

次の瞬間、 刃ような炎が発生し、 シュラスの方へ飛んで行った。

彼女は全力でシュラスを拒絶した。

しかし、 シュラスは退かない……

そして……

『バジュッ! ! 』

シュラスは諸に攻撃を受け、 一瞬にしてボロボロの姿になった。

仮面にはヒビが入り、 割れてしまった。

だが、 シュラスの体に傷が入っている様子は無かった。

「……エル……聞いてくれ……」

シュラスは再びエルに語り掛け、 歩み寄ろうとする。

それに対しエルは次々と炎の刃を飛ばす。

『近寄らないで! シュラスさんも皆消えてしまえばいい! ! こんな私も! ! 』

幾度も攻撃を受けるシュラス……しかしシュラスの体には一向に傷が付かない……

『どうして……どうして効かないの! 早く消えてよ! ! 』

そう叫ぶエルの目からは涙が溢れていた。

そうしている内にシュラスはエルのすぐ目の前まで来ていた。

するとシュラスは……

「エル……」

シュラスは彼女を抱き締めた。

「……エル……済まなかった……」

『そんな事言って……私の事なんて……面倒事としか見てないんでしょ……! 』

「……あぁ……確かにそうだ……お前がいると面倒なことが沢山ある……正直、 こんな危険な力を持つ人間を側に置くのは危ないと思っていた……」

『やっぱり……こんな私……要らないんだ……』

次の瞬間……

「そんな事無い! ! ! 」

『ッ! ? 』

この時、 エルは初めてシュラスの怒鳴り声を聞いた。

あまりにもの威圧感に思わずエルは黙る。

「エル……俺にとって、 面倒でない事なんてこの世には無い……お前だけでなく……全てがそうだ……だがな……お前という存在が要らないなんて……断じて思った事は無い……」

『そんな……でも……シュラスさんは私を守る義理は無いって……』

エルがそう言うとシュラスは言った。


「仲間を守るのに……義理が必要なのか……」


その言葉にエルは全て思い出した。

あの時……シュラスさんは……そうだ……




先程の部屋での会話の時……

「……確かに……俺はエルを守る義理は無い……エルを渡すのも一つの手だな……」

シュラスがミルドとウィラーナに話す。

「俺から言わせれば……エルは面倒事の一つだ……彼女は弱い……故に力も制御ができない……その上に俺の側に置くのは危険が多い」

「だったら……」

「だが、 だからこそ誰かが守ってやらねばならない……義理なんか無くとも……守りたいと思う者を守る……それが俺のやり方であり、 考え方だ……」




『そうだ……シュラスさんは……あの時……』

会話を聞き逃していたエルは全て思い出し、 涙が溢れた。

『ごめんなさい……私……何も考えずに……勝手に……ごめんなさい……ごめんなさい……! 』

するとシュラスはエルを強く抱きしめる。

「いいんだ……ずっと探していたんだろう……お前の心の拠り所を……力はあっても……心の弱い自分を受け入れてくれる『場所』を……あんな言葉を聞いたなら、 当然の反応だ……俺の方こそ……済まなかった……」

『シュラス……さん……どうして……こんな私に……優しくしてくれるの……? 』

「俺もお前と同じ……怪物を中に宿す者だ……だからこそお前の痛みが誰よりも解る……」

シュラスさんも……? ……でも……今となると……納得がいく……あんなに強くて……長生きで……普通の人とは違う考え方を持っていたり……

「エル……俺はお前を見捨てたりなんかしない……だから、 もう安心しろ……」

「……はい」

そう静かに返事をしてエルは気絶するように眠ってしまった。

それと同時にその場に残されていた氷塊は塵となって消え、 凍らされていた冒険者達が無事戻って来た。

するとその場にヴィアレが現れた。

「どうやら収まったようですね……あまり大ごとにならなかったようで良かったですよ」

「まさかこんな形で暴走するとは……何とも気分の悪い展開だ……」

そう言うシュラスにヴィアレは淡々とした様子で話す。

「でも、 結果的にこれで『妨害』の一つは無くなりましたね……彼女の暴走はもう大丈夫でしょう……」

「そうだな……あとは逆さ星の連中だ……それさえ済んだら……」

「……シュラス様……お気を付けて下さい……今回は僕が作った『杖』のお陰で彼女の暴走のタイミングが予想出来ましたが……今度は何が起こるのか分かりませんから……」

「覚悟の上だ……」

そしてヴィアレはその場から姿を消した。

「……しっかり向き合えればいいのだが……人間とこんなにも密接な関係になるのは……初めてだ」

誰もいない瓦礫の上でシュラスはそんな事を呟いた。

続く……


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