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【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第六章 泥沼にはまりこむ

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遺品整理

 なんでも三年もの間、侯爵夫人はこの部屋に立ち入ることができなかったらしい。

 鍵をかけて、誰も入れないようにしていたのだとか。


「たぶん埃っぽいと思うの。申し訳ないんだけれど、掃除も手伝ってくれる?」

「掃除はわたくしがします」

「一緒にしましょうよ、ね?」

「は、はい」


 そんなわけで、掃除道具を持ってイルマの部屋に入る。

 侯爵夫人が鍵を開けたのだが、手が震えていた。


「侯爵夫人、今日でなくて、別の日でも……」

「いいえ、平気よ。ちゃっちゃと終わらせましょう」


 なんでも三年前、騎士隊がイルマの部屋を調査しようとやってきたようだが、侯爵夫人が追い返したらしい。

 つまり、騎士隊の調査が及んでいない唯一の場所がここだということだ。


「もしかしたらあなたとリオンが知りたかった証拠が、ここにあるかもしれないわ」


 イルマの死について、彼女は何かメッセージを遺しているのだろうか。

 それを調べるために、まずは掃除に取りかかる。


 三年間、誰も立ち入っていなかった部屋というのは、とてつもなく汚れていた。

 一度入ってから、すぐに脱出する。

 ゲホゲホと咳き込み、目も痒くなった。廊下の窓を広げ、新鮮な空気を吸い込む。


「ララ、一回着替えましょう。私の体に合うエプロンドレスはあるかしら?」

「ございます」


 メイドが着ているような作業がしやすい服に着替え、口元には布を当てて後頭部で結んだ。眼鏡をかけ、目元も保護しておく。

 箒を握り、イルマの部屋へ挑む。窓を全開にし、床を掃いていった。


「どうして部屋に砂粒なんかがあるのかしら!?」

「天井から落ちてきたのかもしれませんね」


 ガッちゃんは糸で布巾を作り、テーブルや椅子などの家具を磨いてくれた。

 協力して掃除すること二時間――やっとのことで部屋はきれいになる。


「こんなに掃除をしたのなんて、三年前に行った慈善活動ぶりだわ」


 休憩を入れようかと提案したものの、侯爵夫人は首を横に振る。


「一回座り込んでしまったら、二度と立ち上がれないと思うの。あなたは?」

「わたくしもです」

「だったら、このまま整理を始めましょう」


 私は小物が収納されている棚を調べる。侯爵夫人はドレッサーを開いていた。

 イルマはかわいらしい品が好きだったらしい。ウサギの置物やクマのぬいぐるみ、リスの焼き物など、種類豊富な雑貨が並べられていた。

 これらは養育院に寄付するようだ。壊れないように布に包んで木箱に詰めていく。


 棚の確認が終わったら、デスクを確認するように頼まれた。


「あの、侯爵夫人。ここをわたくしが見てもいいのですか?」

「お願い。私はまだ、あの子の存在感が強いところは少し怖いから」

「承知しました」


 イルマが使っていたデスクには日記帳に書きかけの手紙、それから結婚式に関する資料や招待客リストなど、たくさんの私物が出てきた。

 これらもすべて、目を通すように命じられる。


 遺書のようなものは見つからなかった。

 イルマの性格を考えると、自ら死を選んだならば、何かしらメッセージを残すはずだ。

 やはり、彼女は誰かに殺されたのだろう。


 イルマが書いた文章をすべて読ませてもらったが、事件に関係があるような記述は見つけられなかった。


 最後に手に取ったのは、リオン・フォン・マントイフェル様へ、と書かれた手紙である。

 これは唯一鍵がかかった抽斗ひきだしの中にあった物だ。

 鍵は部屋になく、侯爵夫人も持っていなかったので、ガッちゃんの糸を使ってこじ開けてしまった。


「侯爵夫人、マントイフェル卿へのお手紙はどうしましょう」

「開封して読んでちょうだい」

「いいのですか?」

「ええ。もしも恋文だったとしたら、受け取ったリオンも気まずいでしょう?」


 なんだか申し訳ないと思ったものの、侯爵夫人が調べろと言うのだから仕方がない。

 そんなふうに思いつつ、ペーパーナイフを使って封を開いた。

 中には数枚の便箋がきれいに折りたたまれている。


「親愛なるリオンへ――伝えるべきか迷ったのだけれど、あなたの醜聞を握っているという記者から接触がありました。もしかしたら、私が握っている情報と交換してほしい、という取り引きを持ちかけられるかもしれません」


 その一文を読み上げた瞬間、ゾッと鳥肌が立ってしまう。


「侯爵夫人、こ、これはもしや、イルマが亡くなった晩に書いた手紙なのでしょうか?」

「わからないわ。続きはあるの?」  

「あ、あります」


 深呼吸し、手紙の続きを読み上げる。


「私が王族専用の庭と知らずに迷いこみ、目撃してしまった方々は、どうやら長年にわたって関係があったそうです。強く口止めされたのですが、あなたの情報次第では、喋ってしまうかもしれません。また、帰ってきてから続きを書きます」


 ここで手紙は終わっていた。


「侯爵夫人、この手紙の内容はやはり――!?」

「ええ、間違いないでしょうね。それにしても、イルマが王宮の庭で見た人物は、いったい誰だったのかしら?」


 以前、レイシェルにイルマが伝えていた警告を思い出す。

 花嫁修業として王妃の侍女を行うさい、王家の庭に男女の幽霊が出るので近付かないように、というものだった。


「男女の幽霊ですって? ありえないわ。きっとレイシェルが近づかないように、あえてぼかしたのでしょう」

「わたくしもそうではないのか、と思っています」


 男女の片方は王妃だとわかっていた。それについて伝えると、侯爵夫人は深く長いため息を吐いた。

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