表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第一章 ありえない人生のカーテンコール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/92

終わりと始まり

 空が澄み渡った、二十五歳の誕生日を迎えた今日、私の首は衆目の前で飛ばされた。

 先に罪もない弟フロレンシが殺され、慟哭どうこくする中での死刑執行だった。

 私に対する人々の罵声や執行官の乱暴な怒号よりも、最後まで傍にいてくれた蜘蛛妖精アラニャであるガラトーナ――ガッちゃんの必死の声が耳に残っていた。


『ニャッ! ニャニャニャーーーー!!』


 ごめんなさい、ガッちゃん。ずっと一緒にいようって、話をしていたのに……。

 人生という名の舞台に上げられた重たい緞帳どんちょうが、他人の手で強制的に下ろされていく。

 死という底なし沼に、私の体は沈んでいった。


 ◇◇◇


『ニャニャニャニャニャニャーーーー!!』


 耳元でガッちゃんの叫びが響き渡る。

 とても大人しい子なのに、こんなに鳴くなんて初めてではないだろうか。

 なんて考えているところでハッとなる。

 私は先ほど、処刑されたはずだった。

 罪人は死んだら地獄界インフェルノへ堕ち、永遠にマグマの中で苦しむという話だったが……。


「ガッちゃん、どうしてここにいますの!?」

『ニャ!!』


 ガッちゃんのメレンゲみたいに白く、綿のようにフワフワの体が、顔面に飛び込んできた。

 私の頬にスリスリすり寄せ、何やら喜んでいる様子である。

 まさか、ガッちゃんは私を追って地獄界までついてきてしまったのか?


「ガッちゃん、いけませんわ! 今すぐ元いた場所に戻って――」


 起き上がって説得しようとした瞬間、違和感を覚える。

 私が今いるのは、清潔なシーツが広げられた寝台の上。

 とても地獄界のマグマの中とは思えない。


「ここは……!?」


 見覚えがある、五年もの間足を踏み入れていなかった我が家だ。


「いったいどういうことですの?」


 頬に手を当てた瞬間、私は気付く。

 魔力の使い過ぎでボロボロだったはずの肌が、すべすべだったのだ。


「え――!?」


 事情聴取を行うさいに剥がされた爪もきれいな状態で、見慣れた荒れた手はどこにも見当たらなかった。


「ガッちゃん、わたくし、どうなってしまいましたの!?」

『ニャ』


 ガッちゃんは手鏡を持って私のもとへ戻ってくる。鏡で自分の様子を確認しろと言いたいのだろうか。

 最後に見たのはいつだったか。

 顔色は青白く、目は落ちくぼみ、濃い隈が浮かんでいた。頬は痩け、手足はガリガリだったのだ。

 かつての私を知る者達は口を揃えて別人のようだ、なんて言っていたのを思い出す。

 差し出された手鏡を受け取り、恐る恐る顔を覗き込んだ。


「こ、これは!?」


 藁みたいだった長い金髪には艶が戻り、失明しかけていた青い瞳には光が戻っている。ガサガサだった肌は絹のように滑らかで、ひび割れていた唇もふっくらしていて血色もいい。

 本当に信じがたい話だが、鏡に映った私は若返っていた。

 混乱しつつも寝台から飛び下り、見慣れた寝室の部屋に置かれていた七曜帳カレンダーを確認する。


 聖暦千八百八十年、睦ノ月の第二週、火食鳥ひくいどりの曜日。


「処刑された日から、五年前――!?」


 ということは、今の私は二十歳に戻ったということになる。

 そして、父が亡くなる二ヶ月前でもあった。


 ドレッサーの引き出しを開けると、叔父に奪われたメンドーサ公爵家の家紋入りの懐中時計があった。  


「時間が巻き戻っていますの!?」

『ニャッ!』


 ガッちゃんはそうだとばかりに返事をする。

 いったい何が起こったというのか。


「ということは、フロレンシは!?」


 私より先に処刑された幼い弟フロレンシ――彼の首が飛んだ瞬間の記憶は、私の脳内にはっきりこびりついている。

 慌てて部屋を飛び出し、フロレンシの寝室を目指す。

 まだ外は薄暗く、早朝と言えるような時間帯なのだろう。

 フロレンシの寝室を開き、寝台に駆け寄る。


「すーー、すーー、すーー……」


 処刑された時よりも幼いフロレンシが、健やかに眠っていた。

 そんな彼の前で、自分自身の頬を思いっきり抓る。


「い、痛い!」


 これは夢の中ではない。

 ズキズキと痛む頬が、現実だと教えてくれた。


「こ、こんなことが起きるなんて」


 眠るフロレンシに縋るようにわんわん泣いていたら、起こしてしまった。


「グラシエラお姉様、どうかなさったのですか?」


 私のせいで目覚めてしまったにもかかわらず、フロレンシは怒らずに優しく声をかけてくれた。


「怖い夢でもみていたのですか?」 


 そうだ。これまであったことは、悪い夢だったに違いない。

 フロレンシを抱きしめながら、私は涙が涸れるまで泣いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ