飛ぶ教室
約400字の短編小説です。
よろしくお願いいたします。
資料館は退屈だ。
そう友達に話すと、ちゃんと見ないと駄目だよと言われた。
「ねぇ、屋上行こっ」
「あ、うん」
修学旅行のしおりでも見ているのかと思ったら、彼女はタブレットを弄っている。
「ちゃんとって、景色を見るってこと?」
「当ったり前じゃん。だって、こんな機会滅多にないし」
手を繋いで、数千年の時間を縫っていく。向けられた視線が届くまでに、星々の光の道程ほどの時間は要らない。けれど私の命では到底足りないくらいの、それは悠久だった。
齧られた林檎と目が合う――。
「昔の人たちは、どんな風にしてたのかな」
屋上に出て天を仰ぐと、ガラス越しに絵画を見ているような気分になった。
白雲が引っ付く青い天蓋。弧の角度を目で追って、視界に乗った遠景の遺跡たち。
「さあ。でも私は今、一緒に居られて嬉しいよ」
「……まあ、私も」
「にひひっ。なら、私たちはそれでいいんじゃない」
錆びた尖塔が天を突く。
この交差した指の温かさの向こうで。
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