プロローグは擦り傷で
惑星、アスクワ
その星は、一本の樹から生まれた
樹は大地を作り、根を下ろし、数えきれぬほどの生命を生み出した
その中で最初に生み出された生命、それがのちに妖精と呼ばれる者達である
「彼の者達は樹を守護する者として樹が今も根を下ろしているであろう、原初の森に住んでるって話だ」
そう話すはアスクヴァイ地方にある街の、ブティという名の居酒屋主人だ。
「原初の森、かぁ…
そこにも珍しいものとかいっぱいありそうだな〜」
ブティの主人が話す物語を興味深そうに聞いていた、青年とも少年とも言えそうな者が少しだけ自分の世界へと入りかけながらの独り言。
「ん?あんちゃん、原初の森に行きたいのかぁ?」
その独り言を聞き留めた、やや大柄の男性が琥珀色のアルコール酒が入ったグラス片手にカウンター席の、一つ空けて座っていた席から隣へと詰めてくる。
真隣に詰め寄られた青年とも少年とも言えそうな者は、初めはやや驚きながらも言われた意味を理解するや否や目をキラキラさせて『知ってるの⁈』と言わんばかりの顔に早変わり。
「ぶはっ!その顔!
お前さん、わっかりやすいなぁ〜」
酒が入っている所為か、やや大柄な男はそう言ってゲラゲラ笑い出す始末。
それに前のめりになってた青年とも少年とも言えそうな者は膨れっ面になり
「俺の名前はダイム
歳は16
ザンザム地方出身
珍しいものが好きだからトレジャーハンターを生業にして1年くらい
で、コレは知り合いの鱗」
…っと自己紹介をしつつ赤い…灼熱を思い起こさせる紅い鱗を懐から取り出して見せた。
その途端
「なっ…!
それは竜の鱗⁈」
大柄な男は青年とも少年とも言えそうな者…ダイムが見せた鱗に一瞬にして酔いが醒め、驚きを露わにまじまじと鱗を見定め始め。
『ウソ、だろ…?』
そんな副次音声的な声が周りからも上がり、次第にブティの店内はざわざわと騒がしいものとなる。
それもその筈、竜は絶対数が少なく、好意的な者もいるにはいるらしいが基本的には好戦的な種族であり、国仕えのお抱え騎士が数人がかりで挑んで勝てるかどうかなのだ。
故に鱗1枚であったとしても、とんでもなお値段になる事間違い無し!な代物であり、ましてや皆無とさえ言われている竜から直々に賜ったと思しき鱗=竜からの加護を受けた者=竜の加護を受けし者を傷付けようものならば竜の怒りに触れて大変な事に‼︎…っというような図式を瞬時に想像する者が大多数なのだから。
「お前さー」
「ダ イ ム」
「ーダイム、それ、ホンモノか…?」
「本物だよ
本人…いや、竜だから本竜?まぁどっちでもいいか…に貰ったものだからね!」
えっへん!…っと踏ん反り返るダイム。
少々ツッコミたい事はあったものの、大柄な男は『マジかぁ…』としか言えなった。
店内にいる他の者達も同様であるのは最早言うまでも無い。
「で、原初の森…だっけ?
の場所、知ってたら教えて欲しいんだけど?」
「あ…あぁ、知ってるもなにも、有名な森だからね
この辺りの住民なら知らない者なんていないさ」
ダイムの質問に答えたのはブティの主人だ。
商売柄なのか、様々な客を接客し続けた経験からなのか、そのどちらもなのかは不明だが、立ち直りの早さは流石の一言。
「そんなに有名なの?」
「あぁ、有名も有名
とにかく広大で、このアスクヴァイ地方ほぼ全てが原初の森だよ」
「妖精達が大勢棲んでいるから妖精達の森とも呼ばれてるな」
「あと間違っても正規ルート以外のところから森に入るんじゃないぞ!」
ダイムとブティの主人の会話に割って入って来たのは隣に座ったままの、大柄な元酔っ払いと少し離れたところで飲食していた男だ。
「そうそう!絶対やめとけ!」
「二度と森に入れなくなるからぞ!」
「勿体ないから絶対するなー」
などなど。
店内の客達もあれやこれやと会話に参加し出す始末。
どういう事かとダイムが問い質してみると
「森には妖精達の王様ってのがいるんだが、こいつがめっぽう強くてな
比較的温厚なんだが、正規ルート以外で入った場合はその限りじゃねぇ
どんな相手だろうがたちまち一網打尽にして森の外にポイよ」
『あれは見ものだったなぁ!』等々、店内の客達が口々に言いながらケラケラゲラゲラ笑うのでいまいち要領を得ないが、何となく自分の事を思って忠告してくれているのだな。と感じ。
気の良い者達ばかりだな。とダイムは嬉しく思う。
「色々と教えてくれてありがとう
これから原初の森に行ってみるよ!」
正規ルートの道筋も教えて貰い、意気揚々とダイムはブティから出て一路、原初の森へと歩き出す。
その背の後ろ
ブティの店内で店主が
「…あ、妖精達の王様には羽根が無いんだって事、言い忘れちまってた」
との呟きを聞く事無く。
ダイムはまだ見ぬ珍しいモノに期待膨らませて走り出し…そして転けたのであった。