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第7話 束の間の平和



あれから三日たった。

俺はブールさんに付いて回って、


食料を増やし、

テントを増やし、

毛布を増やし、

包帯を増やし、

清潔な布を増やし、

丈夫な鎧や武器を増やし、

お湯を増やし、

馬を増やし、

家畜を増やし、

馬車を増やした。


とにかく色々なものを増やして増やして増やしまくった。体は全然辛くないし、どれだけでも増やせる。


おかげで兵士だけでなく難民キャンプの方にも十分に食料と水、それから衣服が行き渡って、不平不満がぐっと減ったらしい。日本でも腹が減っては戦はできぬと言うもんな。


さらには馬と馬車が増えたことにより行軍速度がぐっと上がった。


それと、レイモンさんが持っている聖剣も量産することになった。


なので兵士たちのほぼ全員が聖剣を持っているという、ファンタジー好きとしてはちょっと変な気持ちになる状況だ。




四日目の今は、トリスカテ地方というところに向かっている。


王国でも西の端で、天然の要塞になっているとか。ここでしっかりと陣を引きなおし、攻めに打って出るというのが作戦だ。


俺は馬に乗れないので、補給部隊の馬車にゴウさんとカコさんと一緒に乗っている。舗装されていない道を、ガタゴトガタゴトと揺れながら進む。


「王国の名産品は、ビガーもなんですけど、シュバっていう酒ですね」

「シュバ?」

「あー・・・シュバ飲みてえなあ・・・」

「・・・あんたは本当シュバ好きね・・・」


道中は基本馬車に乗っているだけで時間があるので、こうやってゴウさんやカコさんにこの世界のことを教えてもらう。


二人とも少し距離が近くなって、俺の敬語がついついとけてしまうくらいには気を許している。


「シュバの木にこういう小指の爪くらいのちっさい黄色の実がブワーッといっぱい成って、それを潰して樽で寝かせるとシュバになる・・・らしいです。俺は詳しい作り方は知らないんですけど」

「へえ〜」


「昔は黄金の薬って言われて、不老不死になれるとか言われてたらしいです」

「ええ?そうなの?」


「まっさかー!昔は貴重だったからそう言われてただけですよ。実際、シュワシュワしてて黄金の液体って言われれば確かに見た目はそうなんですけど」


「俺、あんまり酒は得意じゃないけど、せめて一口飲んでみたいなぁ」

「俺はシュバが大好きなんで、ああ・・・飲みてえなあ。ビガーよりお高いんですけど、俺の爺さんの頃と比べたら安くなってきたんで、頑張れば買えるくらいの値段になったんですよね」


全く知らないことを知れるのはとても楽しい。食べ物ひとつ、飲み物ひとつ取っても、まだ食べたことのないものが溢れている。


「お酒の話もいいですけど、『エリマキ』という食べ物もありますよ」

「エリマキ?」

「はい。王国では有名なお菓子なんです!」


なんだかカコさんの目がキラキラしている。


「姉貴はほんとエリマキ好きだよなぁ。俺には甘すぎる」


「ゴウは辛党すぎるの。・・・ええと、エリマキというのは、真ん中に果物、代表的なのは『モムミ』という片手で掴めるくらいの大きさの、赤くて柔らかい果実なんですけど。


それを芯をくりぬいて、まん丸のまま砂糖で甘く煮詰めて柔らかくして、周りにパイ生地をぐるぐる巻きにするんです。それからオーブンで焼いて、上から白く振るった粉砂糖をたっぷりかけて完成です」


「うわあ・・・すごく甘そう・・・でもうまそう!食べてみたい!」


「パイ生地のサクサクした感じと、モムミの柔らかくてあまーい感じが口の中で混ざり合って、すごく美味しいんですよ!」


カコさんは普段はキリッとしているが、好きなものに対しては熱弁を振るう。その後、ハッと気づいてちょっと恥ずかしそうにするのがとても可愛い。


「エリマキっていうのは、冬に巻くマフラーみたいだからってことなのかな?」


「はい。このエリマキを作った料理人が、冬、雪がしんしんと降る中、真っ赤な帽子にぐるぐる巻きにマフラーを巻いて道を歩く子供を見て思いついたからだそうです」


「へえ〜それはなんか、かわいらしいなあ」


ショタコンではないけれど、その風景を想像するとなんか和む。


二人との会話を楽しみながら、ガタゴトガタゴトと馬車はトリスカテ地方へと進んでいった。




***




トリスカテ地方についた夜のこと。

夕食を食べ終え、ブールさんの指示で不足分を増やし、自分のテントに帰ってきた。


ゴウさんとカコさんは基本的に、一人が俺と同じくテントの内側で、もう一人がテントの外で見張りをする・・・というのを交代でやっている。


今日はカコさんがテントの中にいる。


「あの・・・カコさん」

「はい、なんでしょうか。マスダ様」

「ええと・・・何か小さいやつで、水の魔法を使ってもらえないかな?

それが増やせるか試してみたいんだ」

「分かりました。では、」


カコさんが、右の手のひらを上に向けて、いきなり水の玉を出した。


「どうぞ、マスダ様」

「うぇ!?早っ!」


(増えろ増えろ増えろ・・・)


びちゃん、びちゃん、びちゃん


「すいません!コントロールが難しく・・・」


増やした水の玉はテントの床に落ちてしまい水浸しになる。カコさんは慌ててそれらを吸い上げて、元の水の玉に戻している。


「おお・・・でも出来た」

「すごいですね・・・」


手のひらには、先ほどよりも明らかに大きくなった水の玉。


「カコさんは、いつも戦うときはどんな魔法を使うの?」

「ウォーターカッターのように薄い水を飛ばしたり、多めの水を流して足をさらったりすることが多いです」

「ウォーターカッターかあ・・・」


「夜も遅いですし、明日、明るいところでやりましょうか」

「そうだね」

「はい。マスダ様はそろそろおやすみください」

「うん分かった。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


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